高脂血症や糖尿病、高血圧などの複数の危険因子を持つ患者に対してアスピリンの投与を考慮する…2002年4月の日本循環器学会の教育集会のメッセージです。いよいよ予防治療です。アメリカでは糖尿病がある人は、それだけで心臓発作の既往症の人と同じ扱いを受けるので『アスピリン』はすでに日常的なものになっています。
『アスピリン』というのはドイツ、バイエル社の商標で、薬の成分(一般名)はアセチルサリチル酸と言います。とてもシンプルな構造をしていて、自然界の植物にも含まれています。サリチルというのは辞書を引けば分かるように『柳の木』のことです。柳の木の樹皮が鎮痛効果を持つことは、古くはメソポタミア文明の頃から知られていたといわれ、古代ギリシャやローマの薬でもありました。
アセチルサリチル酸が合成されたのは1853年のことですから、もう150年も前のことです。
アスピリンの誕生は1897年、ドイツの小さな化学染料メーカー、バイエルの研究所でのことです。『リウマチで苦しむ父親のために副作用の少ない薬を作ろう』という20代の研究者が開発しました。折角みつけた薬、アセチルサリチル酸は既に世に知られていたものなので製造特許が取れず、商標『アスピリン』のみだったという有名な逸話が残っています。
アスピリンを少量常用すると血が固まりにくくなることが分かったのが1950年代で、以来消炎鎮痛剤だけではなく、『血栓予防』としての利用が欧米で一般的になりました。
今では一年間に使われるアスピリンの錠剤は1,200億錠、世界中の人が1人20錠/年も飲んでいる計算です。