カラジッチ被告逮捕は何を意味する?

サラエボ
かつての凄惨な紛争の地、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ。.shock - Fotolia.com
1990年代前半に起こった旧ユーゴでのさまざまな紛争。このときの戦争犯罪を裁く法廷として、「旧ユーゴ国際戦犯法廷」がオランダのハーグに設置されています。

国連総会で選出された裁判官14名で構成され、検察官は国連事務総長が指名、国連安保理が任命することになっています。死刑はなく、終身刑が最高刑となっています。

これまで99人が「戦犯」として起訴されていますが、拘束するのは難しいとされています。なぜならこの拘束する機関、つまり警察機関が存在しないので、あくまでセルビアやクロアチアといった旧ユーゴの国々の警察協力がないと、逮捕・拘束は事実上不可能なのです。

カラジッチ被告はボスニア紛争のとき、イスラム教徒であるムスリム人たちを「ジェノサイド(集団虐殺)」としたといわれています。しかし一方でセルビア人たちからは、紛争から現地のセルビア人を守った「英雄」ともいわれています。

セルビア政府がそんな人気のあるカラジッチ被告をあえて逮捕し、法廷への身柄引き渡しを約束しているということはどういうことなのでしょう。

それは結局、就任したばかりのツベトコビッチ首相による「EU加盟」への第1歩ということなのです。EUはカラジッチ逮捕を強く要求してきました。EU加盟を一番の目標に掲げる現政権にとって、これはわかりやすい「親EU」の意思表示なのです。

この法廷で何が明らかになる?

ミロシェビッチ・元ユーゴ大統領はコソボ紛争による失脚後、「人道に対する罪」でこの法廷に起訴されました。日本・ドイツの第2次世界大戦での戦犯を裁く裁判でも「国家元首」は裁かれていなかったので、近代史上初の「国家元首」裁判となったのですが、彼は2006年に死亡してしまいました。

この法廷ではセルビア人だけでなく、コソボ人やクロアチア人も起訴されています。欧米のメディアで「セルビア人=悪」という構図が一方的に流布されてしまいましたが、実際は他の民族勢力も戦争犯罪を犯していることは徐々に明らかになっています。

しかしそれがこの法廷できちんと証明されるか。これが1つのポイントです。

もう1つは、悲惨な民族紛争によって何が起こったか、それを明らかにすることです。ジェノサイドだけでなく、(これらも広義のジェノサイドですが)子どもを連れ去ったり、民族浄化とうたって行われた凄惨な集団レイプ。何が、どういうプロセスで発生したのか、しっかり突き止められることが重要です。

とはいえ、やはり政治的に利用されている観の強いこの旧ユーゴ戦犯法廷。どこまで機能するのか、注目したいところですが、楽観はできません。

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