今週の政治用語解説は、「思いやり予算」についてです。これはどういう意味の予算なんでしょう。そしてこれを減額するかしないかが、政府部内で大きな論議になっているようです。
アメリカへの「思いやり予算」
在日アメリカ軍経費の日本側負担が「思いやり予算」。(写真:「沖縄発役に立たない写真集」 |
もともと、日米地位協定によってアメリカ側が在日アメリカ軍の維持経費を負担する一方、日本も施設・区域の提供費用を負担していました。
しかし1973年の変動相場制以降以来、円高傾向が進み、アメリカは負担増に悩み始めました。たとえば基地で日本人を雇う場合、これは「維持経費」にあたるわけですが、ドルで払うわけにはいかず、高くなった円で払わなければならないわけで、これに困ったわけです。
そこでアメリカは日本の負担増大を要求。1978年、当時の防衛庁長官だった金丸信は、基地の日本人従業員賃金などの負担を始めるようになりました。
このような経費の支出には批判が予想されたため、金丸長官は、あえて「思いやり」、つまり日本の自発的な配慮であるという意味の言葉を使いました。そのことから、この経費のことを「思いやり予算」というようになったのです。もちろん、正式な用語ではありません。
「思いやり予算」の推移
1978年、日本人の労務費負担からはじまった「思いやり予算」は、その後1979年から提供施設の建設費など、1991年に光熱水料費など、1996年から訓練移転費(日本側の要請によるアメリカ軍の訓練移転のための経費)などを、それぞれ含むようになりました。この「思いやり予算」の増額に対応するため、1987年度の防衛費ははじめてGNP比で1%を超えることになります。
ただ、思いやり予算自体は2000年代から徐々に縮小していくことになります。その理由の1つは日本の財政再建のためであり、もう1つは、1995年に起こったアメリカ兵による沖縄での少女暴行事件で起こった「過剰な思いやり」への批判からでした。
1999年に2,756億円まで増加した「思いやり予算」は、こうした背景からその後減額を続け、2007年度は2,173億円となっています。
「思いやり予算」の削減をめぐる論議
ここに来て政府、特に財務省は、「思いやり予算」の大幅削減を考えています。特に日本人労働者向けの諸手当を見直し、100億円程度の削減を目指しています。これによって日本人労働者は困りますが、アメリカ自体の負担は増えません。
しかし、アメリカのゲーツ国防長官はこれに反対しています。「思いやり予算」は「日本が同盟の継続に熱心かどうかを示す象徴」として、その重要性を指摘しています。削減される一方の日本の防衛費の増額も求めています。
これに対し防衛省だけでなく、外務省も反対しています。テロ特別措置法が失効し、自衛隊がインド洋からいなくなった今、さらにアメリカを刺激するようなことは避けたいというのが外務省の考えです。
予算編成を控えており、年内に政府はアメリカとの調整を終えたいようですが、協議の難航が予想されます。テロ特別措置法問題に「思いやり予算」問題と、福田首相は難題を抱えながら年末を迎えることになります。
「思いやり予算」の推移。歳出ベース。出典:防衛省サイト |
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※参考書籍・サイト
『戦後日本外交史』 五百旗頭真 1999 有斐閣
防衛省・自衛隊