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日曜日の政治用語 朝鮮戦争終結交渉

今週の政治用語は「朝鮮戦争終結交渉」についてです。まだ正式には終わっていない朝鮮戦争、それはなぜ? そしてそれを狙う北朝鮮の思惑とはなんでしょうか?

執筆者:辻 雅之

(記事掲載日/2007.10.14)

今週の政治用語解説は「朝鮮戦争終結交渉」についてです。え、まだ朝鮮戦争って続いていたの? 朝鮮戦争は歴史の話じゃないの? いえいえ、朝鮮戦争はまだ正式には終わっていないのです。

朝鮮戦争は今も「休戦状態」

朝鮮戦争
朝鮮戦争は南北の内乱にとどまらない国際戦争だった。
朝鮮戦争は、1950年6月、北朝鮮による韓国侵攻によって始まった戦争であることはよく知られています。

北朝鮮はソ連からの援助による圧倒的な軍事力でこの戦争に勝利できると考えていましたが、その思惑は外れました。そのうち戦線は膠着し、ソ連の仲介もあって、1953年に休戦協定が結ばれ、この戦争は終わりました。

もっとも、この協定に対し、当時の韓国大統領であった李承晩(イ・スンマン)は休戦に対し反対の立場を貫き、署名しませんでした。……どういうことでしょう。背後には、なかなか複雑な状況があるようですね。後でそれは見ていきます。

ともかくも、休戦協定によって朝鮮戦争は休戦状態に入り、今日までに至っているわけです。南北首脳会談が行われ融和ムードが高い朝鮮半島ですが、まずはこの朝鮮戦争を正式に集結させなければ、南北政府の相互承認であるとか、「国交正常化」などにはたどりつけないわけです。

朝鮮戦争はアメリカ、中国の戦争でもあった

北朝鮮は開戦わずか3日後にソウルを占領し、1ヶ月で南端のプサン(釜山)にまで迫りました。しかし、北朝鮮の武力での半島統一はなりませんでした。

それは、アメリカの参戦です。北朝鮮はアメリカの参戦はない、と踏んでいましたが、アメリカはその予想を裏切り、国連安保理の決議を引き出し、「国連軍」として韓国を助けるため朝鮮半島に出兵しました。

そして、アメリカ軍は9月、電撃的な「インチョン(仁川)上陸作戦」を成功させ、戦争の局面を逆転させます。ソウルはアメリカ軍によって奪回され、北朝鮮は敗走していきました。

ここで今度はアメリカの思惑が外れます。勢いに乗ったアメリカは、逆に朝鮮半島を韓国で統一しようとして北上していきます。そして11月には中国国境にまで迫るようになります。

ここで突如、中国から「人民義勇軍」が半島に侵攻、アメリカ軍と戦います。社会主義国として建国間もない中国は、国境にまで迫るアメリカ軍を重大な脅威と見なし、参戦に踏み切ったのです。

50万の人民義勇軍はアメリカ軍を大きく後退させました。翌51年1月には、一時ソウルは再び北朝鮮・中国側に奪われてしまいます。

この時点でアメリカは和平を決断、強硬派の司令官マッカーサーを解任します。一方、中国もこれ以上侵攻する能力はないと、和平の道をさぐりはじめました。

それでも休戦交渉は難航しましたが、1953年、ソ連の独裁者スターリンが死去すると、休戦交渉は一気に進み始め、その年の7月、休戦協定が(韓国の調印なしに)締結されました。

このように朝鮮戦争は、歴史上ただ1つのアメリカ=中国の戦争でもあったのです。もっともアメリカと中国は1979年、国交正常化しています。

中国を排除したい? 北朝鮮の狙いとは

北の思惑
古い友への義理よりお金が大事??
さて、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記と韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は、会談を行い共同宣言に署名しました。

この共同宣言には、「(朝鮮戦争)当事国の3者または4者の首脳による終戦宣言の推進」という表現があり、憶測を呼びました。

4者とは、南北朝鮮とアメリカ、中国をさすことは間違いありません。では3者となると、どこが抜けるのでしょうか。アメリカ軍は、いまだ国連軍を名乗ったりして多くを韓国に駐留させています。中国軍は半島にはいません。よって3者、となると中国が消えるのではないか、といわれました。

これは中国にとっては面白くない話です。多くの犠牲を払っている中国です。朝鮮半島への影響力を話しかねない「3者交渉」による戦争終結は受け入れられないものがあるでしょう。

しかし、北朝鮮は中国との関係を悪化させても、アメリカとの関係をよくしたいと考えているのかもしれません。

まずは、戦争終結によって多くのアメリカ陸上部隊が韓国からいなくなる、という安全保障上のメリット。在韓米軍の縮小は、アメリカも考えているところです。そして、経済的な援助を引き出したいという狙い。

もっとも中国を袖にするようなことをすると「北朝鮮は恩義もしらない、本当に理不尽な国だ」という印象を国際社会にも与えかねません。いずれにせよ、これからの進展に注目です。

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★おすすめINDEX 「北朝鮮の政治」

※参考書籍・サイト
『戦後世界の潮流』 須藤眞志/編著 1988 学陽書房
『国際政治経済の基礎知識』 高坂正堯・公文俊平/編著 1983 有斐閣

読売新聞
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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