2ページ目 【安倍政権が目指すイギリスの教育改革】
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【競争原理でどこまで教育はよくなるのか?】
安倍首相が評価する「教育バウチャー制度」
生徒はバウチャー券を持って学校を自由に選択でき、人気のある学校は券の換金により多くの予算を獲得できる。 |
「……期待されるのが教育バウチャー制度である。バウチャーとは、英語でクーポン券みたいなもののことをいう。アメリカでは、私立学校の学費を公費で補助する政策をスクール・バウチャーという。それによって、保護者はお金のあるなしにかかわらず、子どもを公立にも私立にも行かせることができる。(『美しい国へ』から)
いったい、どんな制度なのでしょうか。
教育バウチャー制度で学校の質を高める
ノーベル経済学賞を受賞した有名な経済学者フリードマンが教育バウチャ-制度の提唱者といわれています。彼もまた、アメリカにおける教育の競争原理の導入を考えていました。そこで彼が提案したのが、親にバウチャーという券を配るというものでした。
子どもの通わせる学校を選んだ親は、配られたバウチャーをその学校に渡して通学します。学校は集めたバウチャーを当局に換金してもらい、学校の予算にする。これが、フリードマンの考えでした。
この制度は、公立・私立問わず、競争原理によって評判のいい学校だけが残り、教育の質が向上するものだということで評価が高まり、アメリカの一部の地方で実施されるに至りました。
お金がない家庭でも私立学校に通えること、そしてその動きに対抗し生徒の流出を防ごうと公立学校は努力をするため、結果的に教育の質が高まる、というところに安倍首相が評価する点があるようです。
ダメ教師は長く教壇に立たせない
さらに安倍政権・自民党独自の案として、「教員免許の更新制導入」というものがあります。教員免許は、一度とったら死ぬまで更新されない。そのため、一度公立学校の教師になったら、よほどな不祥事を犯さない限りは教師を辞めさせられることはないのが現在の制度です。
しかし、それでは教師には緊張感をもたせることができず、自らの質の向上を図ることができない……こうしたことから、安倍首相や自民党は教員免許を更新制にし、「ダメ教師にはやめていただく」(『美しい国へ』から)ことにしよう、というわけです。
「安倍教育改革」はかえって「格差拡大」?
さて、このようなことをモデルとして教育改革が行われたとして、はたして問題はないのでしょうか。まず教育バウチャー制度は、実はアメリカでもそれほど広まっていないのが現実です。やはり、それ相応の問題点を抱えているからです。
バウチャー制度や学校選択制によって学校を自由に選べるといっても、「本当に選べる人」はどれくらいいるのでしょう。
まず、過疎が進んだところに住んでいるような人たちは選択の余地がありません。中学校を電車で1時間などかけて通うなどということはあまり現実的ではありません。
では、学校が集まっている都会の人たちはどうでしょうか。確かに、ちょっと遠くてもいい学校に通える選択肢はあります。
しかし、給食費の滞納であるとか、ワーキングプアとかが問題となっている今、「ちょっと遠い」学校でも通学費がなく通えない子どもは少なくないはずです。
こうしたことからバウチャ-制度や学校選択制は、ややもすれば「過疎の人々や都市の低所得層の教育の質がさらに悪化し、格差がさらに広がる」という懸念もなされています。
バウチャー制度で低所得層の子どもが私立学校に行ける、ということにも疑問符がつきます。私立学校の高い学費と公立学校のそれとの差を埋めるお金はどこから出るのか。結局生徒側が出すしかないのではないか……とも言われています。
競争原理と教育とのかねあいは
競争原理は教育格差を拡大してしまわないのか、それとも逆におさえることができるのか。これが来年大きく議論されるだろう。 |
いじめや学力低下の原因を「やる気がなく、向上心もない教師」に求めることは簡単です。そうした教師を排除するためには、ある程度の競争原理導入はやむをえないのかもしれません。
しかし、教師にとって学校がストレスの場になるような過度の競争原理の導入は、かえって逆効果になるかもしれません。ストレスのため教師が次々に辞めていったり、不祥事をたくさん起こしてしまっては困ります。
また、「学校は厳しい職場」ということで教師という職業が敬遠されてしまうかもしれません。そうなってしまっては本末転倒です。
来年の参院選はおそらく教育問題が最大の争点になるとガイドは考えています。安倍政権の掲げる教育制度改革を、われわれはしっかり見つめる必要があるでしょう。
★さらに詳しく教育改革問題について知りたい人は「安倍政権が進める教育改革」を見てみましょう!
※「安倍政権で日本の教育は大きく変わる?」についての参考書籍・資料はこちらをごらんください。
▼こちらもご参照下さい。
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