2ページ目 【安倍政権が目指すイギリスの教育改革】
3ページ目 【競争原理でどこまで教育はよくなるのか?】
【安倍政権が目指すイギリスの教育改革】
教育に競争原理をもたらす「新・教育基本法案」
教育に対し、国家や自治体から、そして競争原理からの両面でプレッシャーを与え、質を高めようというのが安倍政権の目指す教育改革。 |
これは現行の教育基本法にはないものです。「新・教育基本法案」では、国・地方公共団体の教育における権限を強化することを図ろうとしているとガイドは考えます。
第2項の文章は、つい歴史とか伝統とかという言葉に目がいってしまいますが、注目すべきは「……社会経済情勢の変化に的確に対応するものでなければならない」というところでしょう。
つまり、「社会のニーズを重視した」教育を行う、ということを宣言しているわけです。これは、小学校における英語教育や経済教育の導入へ道を開くものになると、ガイドは考えています。
第3項では、学校の自主性・自律性という言葉が使われています。これは、学校を「市場原理」もしくは「競争原理」におくということだとガイドは考えています。学校が自主的に努力し、学校間競争を起こすことによって、教育を活性化させようということです。
この3つの原則をもりこんだ「新・教育基本法案」に沿って、安倍政権は2007年、本格的な教育改革を掲げるでしょう。それが大きな話題となり、参院選の重要争点となるとガイドは考えています。
安倍首相が評価する「改革モデル」とは
安倍首相は、サッチャー政権やブレア政権が行ったイギリスの教育改革を非常に評価しています。それは首相の本『美しい国へ』を読めばよくわかります。「じつは、サッチャー首相は、イギリス人の精神、とりわけ若者の精神を鍛えなおすという、びっくりするような意識改革をおこなっているのである。それは、壮大な教育改革であった」(『美しい国へ』文春文庫より)
そこで、安倍首相が手本にするであろう、イギリスのサッチャー・ブレア両政権が行った教育改革がどのようなものだったのか、みていくことにしましょう。
サッチャー政権の行った大教育改革
イギリスを大胆に改革した「鉄の女」・サッチャー元イギリス首相。写真:アメリカ大統領府サイトより |
つまり、徹底した民営化、市場原理の導入による「小さな政府」の構築をサッチャーは目指しました。そして過剰な(と思われた)福祉を縮小し、規制緩和を実施、「社会を政府から自立」させることで、イギリス社会を活性化しようと考えたのです。
彼女の政権は11年に及びましたが、その集大成が教育改革でした。1988年、教育法が抜本的に改正され、数々の制度変更が行われたのです。
まず、統一されていなかったカリキュラムを「ナショナル・カリキュラム」として統一し、中央政府の教育内容への介入権を強化しました。さらに92年には教育基準局を設け、学校への査察を強力に行わせました。
一方、子どもの親たちが参加する「ガバナー」に教員や校長の採用または解任権、学校運営権を与える「ガバナー制度」を設け、学校の自律性を高めました。
つまり、一方で国が強力に教育内容や教師の質を吟味する。もう一方で、親たちが学校の運営権を握る。両面から、「ダメ学校、ダメ教師」を淘汰していこうという試みだったわけです。
サッチャー路線を受け継いだ労働党ブレア政権
1997年、保守党から労働党に政権が交代しましたが、労働党のブレア政権はサッチャーの路線を基本的に守りながらさらに教育改革を進めていきます。教育予算を増額させていく一方、2000年には教師に成果報酬制度を導入します。教師にさらなる「競争」を求めるもので、サッチャー路線の延長線上といえるでしょう。
ガバナー制度も受け継がれていきました。公立学校のほとんどは「コミュニティ・スクール」とよばれるようになり、学校のガバナーには給食や清掃などについて、自治体(地方教育当局、LEA)からのサービスを受けるか、それとも民間のサービスを受けるかを選択できるようにしました。
こうして、ブレア政権もまた教育における「市場原理」「競争原理」の導入をすすめてきたのでした。このような制度が、「安倍教育改革」のモデルとなっていくものと思われます。
『美しい国へ』に書かれてある「ダメ教師にはやめていただく」制度を、サッチャー・ブレア両政権の改革をモデルに作っていく……これが、安倍政権の目指す「教育改革」の一番の柱だと思われます。
★次ページでは、安倍首相が評価しているアメリカの「教育バウチャー」制度について、お話していきます。