2ページ目 【あいまいな「周辺事態」の定義とは?】
3ページ目 【周辺事態法についての論点・争点】
【あいまいな「周辺事態」の定義とは?】
沖縄少女暴行事件と安保再定義
県民感情を抑えてアメリカの沖縄基地を維持することも、安保再定義の1つの目的となった((photo(c))沖縄発!役に立たない写真集 |
そんな政府を根本から揺るがせた事件が沖縄で起きました。アメリカ兵による少女暴行事件です。
それまでも米軍基地に悩まされていた沖縄県民は、この事件に反発し大規模な抗議行動を起こしました。この全県的な抗議運動のなかで、安保体制を維持していくには、別の意味で「安保再定義」が必要であると政府は考えたのです。
こうして、ポスト冷戦のための安保再定義の一環として、普天間飛行場の返還が政治的スケジュールとして盛り込まれるようになったのです。……しかし、いまだ返還・移転の動きは紆余曲折をたどり、実現はしていません。
新ガイドラインの締結と周辺事態法制定
1996年の橋本首相・クリントン大統領共同宣言が、事実上の安保再定義宣言となりました。このなかで「日米防衛協力のための指針」いわゆるガイドラインの見直しについて言及され、「日本周辺地域」における重大事態での日米協力を拡大させていくことが発表されました。
これに基づき、新ガイドラインの策定が進み、翌97年に作業が終了しました。この新ガイドラインでは、新たに「周辺事態」での日米協力が盛り込まれました。
これに基づき、98年に周辺事態法案が閣議決定、99年に国会において成立することになったのです。これによって、日本領土本体の脅威だけでない、「周辺事態」のなかでのアメリカ軍への日本の協力についての法的根拠が成立することになったのです。
「周辺事態」とは何か?
ここで気になるのが「周辺事態」という言葉です。日本の周辺の事態、とはいえ、あいまいな言葉です。周辺事態法における「周辺事態」の定義は「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」(第1条)というものです。
しかし、範囲が明確でありませんね。
当時この法律を審議していたときの小渕首相の国会答弁から引用してみます。
「……ある事態が周辺事態に該当するか否か、及び我が国が対米協力を含むいかなる活動を実施するかについて、国益確保の見地から、その時点の状況等を総合的に見た上で我が国が主体的に判断するものであります。」
「さらに、今次のここで御提案されております周辺事態におきましては、あらかじめ生起する地域を地理的に特定できないこと、したがって、このような意味で地理的概念ではない。それで、ある特定の地域における事態につき、これがあらかじめ周辺事態に当たるか否かの質問に答えることは、これは不可能である、こういうことでございます。」
主体的に判断するもので、あらかじめこの地域の事態が周辺事態に当たるかどうか考えるのは難しいということですね。ますます、難しい概念です。
「周辺事態」の定義があいまいなのはなぜか?
実にあいまいでややこしい「日本の周辺事態」という概念、それには理由がある? |
1)アメリカは新ガイドラインの適用が朝鮮半島問題のみになることを避けたかった
アジア・大平洋地域はまだまだ不安定だとアメリカは考えていました。そのため、「南北朝鮮が統一したらガイドラインはいらない」(『日米同盟半世紀』)的なものにはしたくなかった。もっと柔軟なものにしたかったのだと思われます。
そのため、あえてあいまいになっている。
2)アメリカは沖縄の軍事展開を続けたかった
95年の少女暴行事件、そして県民感情の高まり、普天間基地返還の日本からの申し出はアメリカにとっても日米安保を維持していく上で大きなインパクトとなったでしょう。
しかし、アジア・太平洋で軍事展開をする上で沖縄は欠かせない。
こうしたことから、周辺事態をある地域に固定しないでおく。そうすることで、日本のあらゆるところから協力を受けるような体制にしておく。ということで、沖縄の軍事展開を減らさないようにする。
こうしてガイドラインは沖縄を起点とした地域も適用範囲にするよう求め、「周辺事態」というあいまいなものになったのではないかと考えられます。
★では最後のページで、周辺事態法が発動されると日本で何が起こるのか、そしてその問題点はなにか、論点となっているところを整理していきたいと思います。