2ページ目 【民族紛争とロシアの影】
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【欧米への接近、ロシアとの対立】
「バラ革命」とアジャリア問題
サアカシュビリ大統領。グルジアに民主化をもたらすか、それとも……?(写真:アメリカ国務省) |
2003年、議会選挙での不正疑惑をきっかけに野党の抗議行動が広がり、シュワルナゼは退陣を余儀なくされました。これを「バラ革命」といいます。
しかし、これがグルジアに本当の民主化をもたらしたかどうかは、いささか疑問です。2004年、現在の大統領サアカシュビリが95%という民主国家としては信じられない得票率で大統領選に勝利したことはそのことを暗示しているようです。
そしてこの混乱のなかで、もう1つの自治共和国・アジャリアが独立の動きを見せます。これもロシアの支援があったものでした。アジャリア人(アジャル人)は基本的にグルジア人と同じ民族ですが、トルコによる支配が続いたため、イスラム教徒が多いことに特徴があります。
アジャリアはシュワルナゼ政権と良好な関係を築いていたため、バラ革命はむしろ中央政府とアジャリアとの関係悪化を生みました。2004年に緊張が極度に高まりましたが、軍事衝突は回避されています。
グルジアの欧米接近
原油パイプラインを持つグルジアは、急速に欧米と接近しはじめ、ロシアとの対立を深めつつある。 |
また、反ロシア・親欧米で一致するウクライナとも提携関係を強め、もともとウクライナや他国(アゼルバイジャン・モルドバ)と組んでいたGUAMという国家連合を2006年に「民主主義と経済発展のための地域連合GUAM」とし、より親欧米色の強い組織へと改組しました。
これに警戒感を強めているのはもちろんロシアです。欧米勢力がロシア寄りに拡大してくることは、ロシアの安全保障にとって脅威だと考えられているからです。
そんななか、2006年9月にロシア人将校がグルジアによって一時拘束されるなどし、両国の緊張はさらに高まりつつあるのが現状です。
グルジアは元来、ロシアにエネルギーの多くを依存している国です。ウクライナがエネルギー供給をロシアに止められ窮地に追い込まれたように、グルジアにもその危険性があります。
しかし、グルジアには「原油パイプライン」という武器があります。
カスピ海の原油を黒海まで送るパイプラインをグルジアは持っています。これは欧米諸国がロシアを抜きにカスピ海の原油を確保する格好の手段です。グルジアはウクライナよりも欧米諸国、特にアメリカの支援が受けやすいと踏んでいるのです。
しかしロシアも21世紀にはいり、急速に経済復興してきました。原油の輸出量はサウジアラビアと拮抗する石油大国になっています。これ以上旧ソ連諸国のロシア離れ、欧米勢力の伸張を防ぐ意味でも、ここは弱気になるわけにはいきません。このところの原油高騰により、ロシアにとって原油は欧米に対する立派な武器となっています。
これからも、原油を武器にして、グルジアとロシアの対立は続いていくことになるでしょう。それは、ウクライナやモルドバといった他の反ロシア路線の国々の運命を左右するかもしれません。
アメリカは原油以外にもグルジアを利用したい
アメリカは、単に原油利権だけでグルジアを利用しようと思っているわけではありません。「21世紀の世界の火薬庫」といわれる中央アジアは(アフガニスタンも含めて)、イスラム原理主義勢力も多く、アメリカが最も警戒している地域の一つです。
グルジアはこの中央アジアに地理的にも近いわけで、実際アメリカはここに軍隊を展開しています。この地政学的な点からも、アメリカはグルジアを利用したいわけです。
しかしアメリカが小国グルジアをどこまで本気で守ってくれるかは未知数。そして、欧米勢力に支えられている観のあるサアカシュビリ大統領の今後も、不透明です。
★さらに詳しくロシアとその周辺について知りたい人は「ヨーロッパ・ロシアの政治」を見てみましょう!
※「グルジア政治の基礎知識2006」についての参考書籍・資料はこちらをごらんください。
▼こちらもご参照下さい。
大人のための教科書 政治の超基礎講座
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