2ページ目 【「勝ち取られ、守るべき言論の自由」──ヨーロッパの論理】
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【「勝ち取られ、守るべき言論の自由」──ヨーロッパの論理】
古典的に重要なヨーロッパ市民の権利が「言論の自由」
ヨーロッパ市民革命によって、人々は3つの権利を「勝ち取った」。それゆえ「言論の自由」はその成果として「守らなくてはならない」権利だとされる。 |
このころヨーロッパの市民たちが主張した権利が自由権であり、「不等な逮捕・束縛からの自由」「自分たちの財産に対する自由」、そして「言論の自由」でした。
フランス人権宣言第11条
思想および意見の自由な伝達は、人の最も貴重な権利の一である。したがってすべての市民は、自由に発言し、記述し、印刷することができる。ただし、法律により規定された場合におけるこの自由の濫用については、責任を負わなければならない。(『人権宣言集』岩波文庫より引用)
アメリカ合衆国憲法 修正第1条
連邦議会は、国教を樹立し、あるいは信教上の自由な行為を禁止する法律、または言論あるいは出版の自由を制限し、または人民が平穏に集会し、また苦痛の救済を求めるため政府に請願する権利を侵す法律を制定してはならない。(訳は在日米国大使館サイトより引用)
第2次世界大戦後広まる「言論の自由」
さて、それでも20世紀中頃、ドイツとイタリアに言論を弾圧する独裁政権が誕生、第2次世界大戦勃発の大きな要因となりました。このことは、「言論の自由」の重要さを、欧米人に深く認識させることになりました。アメリカ大統領であったフランクリン・ルーズベルトは、人間にとって重要な自由の一番手に、「言論および表現の自由」を掲げて演説しています(1941年)。
そしてこの理念は戦後、世界人権宣言、そしてそれを国際法化した国際人権規約にも盛り込まれるようになりました。
国際人権規約・B規約 第19条2項
すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
ヨーロッパ人の意識:「言論の自由は勝ち取ってきたもの」
こうして、ヨーロッパ人たちは言論の自由を「勝ち取ってきた」わけです。日本人はあまり深く考えませんが、彼らはこのことを大切に思っているのです。そのため、最近、マスコミが畏縮してイスラム教やイスラム社会に批判的な記事を書かない、あるいは過剰なまでにそれを避けている……これは、重要な「言論の自由」が犯されているのではないか。
こうした考えで、デンマークの大手新聞「Jyllands-Posten」の編集部は、こうしたマスコミに広まる「自己検閲ムード」を警戒し、「言論の自由を確かめるため」あえてムハンマドの風刺画などを掲載したようです。
これは去年の9月のことだったのですが、他のヨーロッパ各国もこの記事を取り上げ、中にはこの風刺画を再掲載するものもありました。
フランスの大衆紙「Soir」は、この風刺画の他に新たにブッダなどの風刺画も加え、「われわれには神を風刺する権利がある」と主張しています。また、有力紙「ル・モンド」も風刺画の掲載に踏み切りました。
一部の政府関係者は陳謝ないしはメディアに対して自省を促す発言をしているようですが、「言論の自由を犯すな!」というヨーロッパ・メディアの動きはおさまりそうにありません。
彼らにとって、言論の自由はまさに「勝ち取った」権利であり、「守られなければならない」権利なのでしょう。
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日本人には今ひとつわからない感覚?
中江兆民によると、欧米の人権は勝ち取られたものである。とすれば、それは「守っていく」のが欧米メディアの気概か。 |
イスラム教への無知も、そこにはあると思います。
しかし、「勝ち取った権利」である言論の自由の神聖さを守る闘い、という意味で、これはヨーロッパ・ジャーナリズムの「ジハード(聖戦)」なのかもしれません(それがいいか悪いかはさておき)。
明治前半の自由民権運動の時、その思想を支えた中江兆民は、人権を「回復(恢復)的民権」、つまり「勝ち取った権利」と、「恩賜的権利」、つまり「与えられた権利」に分類しました。
そして、欧米の人権は「回復的権利」、日本の人権は「恩賜的権利」が主流であると考えました。この考え方は、的を得ているように思えます。
日本人の権利意識は「憲法に書いてあるから」「法律で許されているから」という感じで、自分たちで権利を作り、勝ち取る、というよりも、なんとなく与えられている感じが強いように思えます。
しかし、ヨーロッパでは人権は「勝ち取った」ものなのです。これを容易に明け渡してはならない、というのがヨーロッパ・ジャーナリズムの考え方のようです。
次のページでは、ではなぜイスラム教徒はこうまでして怒るのか、ということについて考えていきたいと思います。
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