2ページ目 【表向きはポピュリズム、そして背景には巧みな「小泉流マキャベリズム」】
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【表向きはポピュリズム、そして背景には巧みな「小泉流マキャベリズム」】
レーガン大統領の「メディア・ポリティクス」
レーガン元大統領は大統領としては高く評価されていますが、「政治家」としての評価は、はっきりいって今ひとつです。レーガン政権の中枢たちが、立案した政策などの大統領に裁可を得るため、まずは「わかりやすく図にしてみる」ことを行い、政策の本当の中身は、二の次になってしまったことは知られています。
しかし、レーガンは俳優・声優・アナウンサーだったキャリアを生かして、「国民にわかりやすく語りかける」ことを徹底しました。
また、元タレントならではともいえる「切り返し上手」でもあった彼は、たとえば失業対策の無策について記者から問われると、「昔子どもだったころ父親が失業してクリスマスは悲惨だった」などとそつなく「切り替え」を行っていました(このあたりは小泉首相と共通点があるかもしれません)。
こういったことは戦前のルーズベルト大統領のころから行われていたのですが、この点で才能あふれるレーガンは、官僚が作った原稿を丁寧に直し、大衆にとって響きがよくわかりやすいものにしたのです。
このようなレーガンの「メディア・ポリティクス(マスメディアを巧みに操作する政治手法)」は成功し、レーガン政権は大統領最長任期である2期8年を無事努め、副大統領だったブッシュ氏に共和党政権を引き継ぐことに成功したのです。
小泉首相の「テレビ・ポリティクス」
そして、小泉首相です。今までも、「テレビに相性のいい」政治家は幾人かいました。しかし、この人ほど、テレビに適合した人はいなかったでしょう。彼は、どんなに長くしゃべっても、一文一文が短い。これは、ニュース素材としては編集しやすいこと請け合いです。「自民党をぶっ壊す」「郵政民営化は改革の本丸だ」「民間にできることは民間に」「人生いろいろ、会社もいろいろだ」……
国会での質疑・討論などをテレビで見ていると、どうみても小泉首相に分が悪い場面が、いくつも出てきます。しかし、その日のニュース、そしてその週のニュースワイドショーで流されるのは、時間に追われるテレビという媒体にうってつけの扱いやすい素材、小泉首相の発言シーンなのでした。
このことをご本人がどこまで自覚して行っているのかはわかりません。しかし、いわゆる「ワンフレーズ」「ショートフレーズ」主義が、小泉首相のテレビでの印象を鮮明にし、国民に強くアピールする効果を持つことは否定できません。
庶民性を「覚えた」小泉首相
さらに小泉首相は、2001年の総裁選で、「ポピュリスト」に必須な要件「庶民性」の必要性を覚え、実行していきます。私は10年ほど前、小泉首相が横浜駅のホームで独り立ち電車を待つシーンを目撃したことがありますが、これは彼が「束縛を嫌う」人間だったからであって、もともと「世襲議員」であった彼に最初から庶民性が備わっていたかどうかは疑問です。
しかし、総裁選で、庶民的かつ激情的に叫ぶ田中真紀子氏への人気を目の当たりにし、いつしか小泉首相も「感情に訴える」庶民的なやり方が有効だ、ということを学んだと思われます(彼は、そのくらい実は「老獪(ろうかい)」な人物です)。
それは、自民党内の「敵」を「抵抗勢力」と呼ぶことから始まり、貴乃花優勝のときの「感動した!」、日本ダービーの観戦と馬券の購入、そしてタウンミーティングの開始(これは中断されていた『一日内閣』の再開だったのですが)、メールマガジンの配信、有名ミュージシャンとの交流、などなどに表れるようになりました。
そして生まれた「小泉劇場」
そして、政界の抗争。田中真紀子氏の外相更迭、鈴木宗男氏の失脚、拉致問題、(旧)橋本派の分裂、……そして今回の郵政国会。小泉首相は、常にこの、飽きることのない(というより、マスコミへの素材提供を中断しない)「小泉劇場」の中心にいつづけたわけです。そのクライマックスシーンの1つが、今回の解散・総選挙だったりしたわけです。
まさに小泉首相は『政界の中心で小泉が叫ぶ』という劇場政治を演じきったのです。国民はマスコミを通じて、叫び続ける小泉首相の印象を鮮明に焼き付けられることになるのでした。
「ワン・イシュー政治家」小泉純一郎
そして、総選挙で民主党などから批判を浴びてきたように、小泉首相はもっぱら「郵政民営化」という1つの争点=ワン・イシューで勝負をしました。結果的に、これがあたり、自民党は勝利したといえます。
小泉首相が、「郵政民営化という」ワン・イシューに持ち込むことが有利か不利かを判断したかどうかはわかりかねます。
しかし、彼が基本的に興味のあることにはとことんこだわるが、そうではないことはどうでもいい、という形の「ワン・イシュー政治家」である、とはいえそうです。
彼の持論である郵政民営化は本当に長年の宿願でした。彼はこれを成し遂げることによって、歴史に残る政治家になれる、と信じているはずです。
しかし、外交問題については、興味がないらしく、はっきりいって右往左往です。
たとえば湾岸戦争の時には自衛隊の掃海艇派遣に対して、そして90年代前半には日本の常任理事国入りに対して、はっきりと反対の姿勢を示しています。
しかし、彼は今、内閣総理大臣として自衛隊をイラクに送り、そして内閣の政策として常任理事国入りを進めています。
彼にとって、靖国問題は外交問題ではないのでしょうか。あるいは、日中関係、日韓関係、いずれも関心がそれほどないのでしょうか。
老獪な「マキャベリスト」
小泉首相はまた、意外と老獪な政治家でもあります。そもそも、そうでなくては、「一匹狼」で通っていた彼が首相に上り詰めることはできません。2001年の総裁選で、決選投票に挑もうとした亀井静香氏を、中曽根元首相を使って断念させたにもかかわらず、そのときの約束を反故にしたばかりか、亀井氏に「悪役」のイメージを植えつけることに成功したのは典型例といえます。
また一方で、小泉首相の今や「忠実な家老」となっている武部幹事長ですが、2001年総選挙ではむしろ彼は反小泉派でした。しかし、それにもかかわらず総裁選直後に農水相に抜擢されたことで、「男気」を感じた彼は一気に小泉首相に傾倒することになったのです。
何か考えているようで、考えていない。しかし、考えている……小泉首相のパーソナリティをつかむのはむずかしいですが、今度の総選挙は、まさに老獪な戦術によって勝利をつかんだといえます。
次のページでは、負けた民主党を、「ナロードニキ」という言葉を使って、その敗因を考えてみたいと思います。