格付けの意義
株式市場や債券市場において、債券や株式の取引を円滑にするためには、債券や株式を発行する企業に関する情報(財務に関する情報、営業に関する情報など)の開示が求められています。企業がどれだけ詳細に情報を公開するかということも重要ですが、その情報が正しい情報であると保証することも重要です。そこで、企業会計では会計監査を行ない公開情報の品質を保証します。しかし、保証された情報が十分に公開されていても、それだけでは十分ではありません。株式や債券を購入する投資家のうち多くは会計の専門家ではありませんから、会計情報を提供されても、その情報を判断する能力がないのです。つまり、情報は提供されても、受け取る側が理解できなければ意味がないのです。
そこで、考え出されたのが格付けという制度です。専門機関が企業の経営状態を分析し、債務の元利の返済能力を簡単な記号で表示するというものです。企業財務の素人でも一目でわかるように工夫されています。
格付会社はどんな会社?
格付けを行う専門機関は、民間企業で、「格付会社」と呼ばれます。アメリカのムーディーズやスタンダード アンド プアーズが有名です。日本でも、日本公社債研究所、日本格付研究所、格付投資情報センターがあります。
債券を発行して資金調達を行おうとする企業は、このような「格付会社」から格付けをしてもらいます。なぜ、企業は格付けが必要かというと、債券を買う投資家が格付けを参考にして債券を買うか買わないかをきめるので,格付けがないと債券が売れず、資金調達ができないからです。
「格付け会社」は、債券を発行して資金調達をしようとする企業から格付け料をもらいます。ですから、「格付会社は、企業から格付け料をもらうと、企業に甘く評価するのではないか?」という疑問も出てきます。
しかし、もし、格付け会社が債券発行企業に甘い評価をすれば、債券を購入する投資家は、その格付け会社を信用しなくなります。そうなると、債券発行企業としては、信用力のない格付け会社の格付けを獲得しても意味がありませんから、信用力のない格付け会社に格付けを頼まなくなり、その格付け会社はつぶれてしまいます。
このように、格付け会社は、短期的な利益を目的に甘い格付けを行うと、信用をなくしつぶれてしまうので、甘い格付けはせず、正しい格付けを行うように常に、市場からプレッシャーを受けています。
このように、格付会社は、誰かがその格付け内容をチェックするのではなく、市場に任せておけば一定の規律が保たれるのです。このような規律を市場規律といいます。
格付け記号の意味
AAAとかA2とか表記される,格付けの記号の意味について説明しましょう。多くの格付け会社は、AAA、AA、A、BBB、BB、B、CCC、CC、Cという表記ですが、ムーディーズは、Aaa、Aa、A、Baa、Ba、B、Caa、Ca、Cと記号が少し違います。
AAA(Aaa) | 元利金の支払いの確実性は最高水準 |
AA(Aa) | 確実性はきわめて高い |
A | 確実性は高い |
BBB(Baa) | 現在十分な確実性があるが、将来環境が大きく変化した場合、その影響を受ける可能性がある |
BB(Ba) | 将来の確実性は不安定 |
B | 確実性に問題がある |
CCC(Caa) | 債務不履行になる可能性がある |
CC(Ca) | 債務不履行になる可能性がかなり高 |
C | 債務不履行になる可能性がかなり高く、当面立ち直る可能性がない |
D | 債務不履行に陥っている |
AA(Aa)からCCC(Caa)までの格付けは、さらに、+、なし、-(1、2、3)と3段階に格が細分化されています。カテゴリーの中で、+(1)は上位、+-なし(2)は中位、-(3)は下位にあることを示します。
たとえば、同じAランクであっても、A+、A、A-(A1,A2,A3)と 3段階にさらに分かれます。
「格付け=良い会社」とは限らない!?
この格付けは「債務の元利金の返済能力」を審査するだけなのですが、世間では、高い格付けの会社イコール良い会社という思いこみが多いようです。
確かに、お金を貸した人から見れば、格付けが高いほうが良い会社といえるでしょう。しかし、株を購入する場合や、就職するとなると話は変わってきます。なぜなら、資金を確実に返せるということは、資金を安全確実に使っているということを意味するだけです。世の中に安全確実で高収益といううまい話はありません。つまり、安全確実路線とは、収益も将来性もそこそこということになります。
一生その会社で働こうとするならば、目先の安定性よりも将来性が重要となるでしょう。これは、将来の利益が重要な関心事である株主の場合も同じなのです。
最後に、某格付け会社のA氏の話で締めくくりたいと思います。「高い格付けの会社を作るのは簡単ですよ。借りた資金を全額国債(*)で運用すればいい。この会社の返済能力は確実と判断できます。でも、この会社は成長性がありませんから、こんな会社の株を買おうという人はいません。つまり、私たち格付け会社は、元利金の返済能力を審査しているだけなのです!」
*注 発言当時、日本国債はAAAで最高格付けでした。現在では、日本国債の格付けは下がっていますので,このように言い切れないかもしれません。日本国債の格下げについては、次回、お話したいと思います。
【関連リンク】
日本国格下げ!日本政府の信用力(Close Up!)
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