社会ニュース/よくわかる時事問題

どう守る? 私たちの心と体の健康

「最近、疲れが抜けない……」働く人たちの多くがそんな風に感じている時代、長時間労働の問題は決して人ごとではありません。ある過労自殺の判決から見えてくるものは……

執筆者:志田 玲子

どうなる? 働く人たちの「心」と「体」の健康

「最近、疲れが抜けなくて……」今の時代、働く人たちの多くがそんな風に感じているのではないでしょうか。

9月の衆議院選挙後に始まった第163回特別国会は、11月1日に閉会。ここで、ある法案が改正されました。それは、働く人たちの過重労働・メンタルヘルス対策の充実を目指す労働安全衛生法。新しい法律では、月100時間を超える残業をした労働者が申し出た場合、医師による面接指導を行うことが事業主に義務づけられるようになります(2006年4月施行)。

これまでは、法律ではなく厚生労働省から都道府県への通達「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(2002年)で、月45時間を超える残業をした労働者は産業医の助言指導を受けさせること等を、事業主に「監督指導」していました。企業が正社員を減らし、パートや派遣社員を増やすなど人件費削減を進める中で、長時間労働を強いられ、健康障害に悩む人たちが増えていることに対応したということですが、これによって働く人たちの「心」と「体」の健康は確保されるのでしょうか?

23歳の青年が自殺、なぜ?

自殺
過労によるうつ病で自殺! 23歳の青年に起こった悲劇に迫ると……写真提供:J's Photo Gallery
9月27日、甲府地方裁判所で画期的な判決が言い渡されました。社会保険庁職員だった息子が自殺したのは、過重な時間外労働等を強いられ、うつ病になったことが原因であると、両親が国に損害賠償を求めた請求が認められたのです(認められたのは民事訴訟のみ、国家賠償の請求は時効を理由に棄却)。
裁判所は、社会保険庁の安全配慮義務違反(※)を認め、国に賠償金総額約7,2000万円(約3,592万円他×2)の支払いを命じました(原告=両親の請求額は総額約1億2,000万円、約6,130万円他×2)。
※安全配慮義務
人事院規則では、各省庁の長は、所属職員の健康の保持増進及び安全の確保に必要な措置を講じなければならないとしており、国は、職員たる国家公務員に対し、生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っている。


これは、改正労働安全衛生法を作成した厚生労働省のおひざ元である社会保険庁で起こった悲劇ですが、原告側弁護士によれば、国家公務員の過労自殺に関して国に損害賠償を命じた判決は初めてだそうです。

自殺した横森真二さん(当時23歳)は、96年4月から社会保険業務センター中央年金相談室で電話相談係をしていました。職場で最年少だったため本来の業務以外に雑用的な仕事も多く、家族に仕事の不満や悩みをこぼす日々が続きました。特に、96年度は年金の制度変更が相次いだため業務は多忙を極め、裁判所が認めた横森さんの時間外労働時間は、自殺直前の1か月で120時間を超え、直前1週間だけで約48時間にも及びます。つまり、通常の1日8時間労働にプラスして、これだけ残業をしていたということです。97年3月、総務部庶務課人事係へ異動が決まった時には、今度も激務を担当する部署であることにショックを受け、同僚や友人などに「逃げたい」と口走るなど情緒不安定になっていました。そして、その直後の4月、飛び降り自殺を図り、亡くなりました。

こうした悲劇に対し、国はどのように対応したのでしょうか? 実は…… → 次のページへ

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