古民家/古民家探訪

ガイドが大好きな家(3) お風呂で見る!住宅の変遷(2ページ目)

東京・小金井にある「江戸東京たてもの園」で発見した長く快適に暮らせる家のヒント。今回は、浴室に注目して見ていきましょう。

大塚 有美

執筆者:大塚 有美

長く暮らせる家づくりガイド

定点観測で見えてくるモノ

「長く暮らせる家づくり」のヒントを発見する方法。それは「定点観測」。同じ場所・部位を見るということです。

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「田園調布の家」の浴室。真っ白いタイルが清潔なイメージです

「西ゾーン」には「田園調布の家」、建築家の「前川國男邸」、堀口捨己による「小出邸」と連なって、大正14年から昭和17年までに建てられた住宅が並びます。それぞれ趣があり、味わい深い家なのですが、1軒だけで見るのではなく3軒続けて見学し、それぞれの同じ場所を比較してみると、なかなか興味深いものが見えてきます。

例えば浴室。「田園調布の家」は浴槽が造り付けで、大判のタイルが貼ってあります。対して「前川國男邸」は、床や壁をモザイクタイルで仕上げた浴室で、浴槽は据置タイプ。素材はほうろうでしょうか。トイレや洗面も同室です。「小出邸」では小判形の木製の浴槽が三和土に直に置かれ、そばに石でつくられた流しが木の台にのせられています。床はスノコをチョット高くしたような感じ。建築時期は、「田園調布の家」は大正14年(1925年)、「前川國男邸」は昭和17年(1942年)、「小出邸」が大正14年(1925年)となっています。

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「前川國男邸」の浴室。浴室と洗面、トイレが同じ空間に配置されている現代の西洋式のスタイルです

前の2邸は、建てられた時期を考えるとハイカラな感じがしますし、特に「田園調布の家」は現在の住宅にも通用する浴室に思えました。また、「前川國男邸」は、そのつくりの美しさだけでなく、浴室とトイレが同室というプランを第二次世界大戦中の昭和17年に実現させていたところがポイント。ル・コルビュジェのもとで学び、「ヨーロッパの近代建築を取り入れ、日本のモダニズム建築を切り開いた」といわれる前川國男ならではという感じです。

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小出邸」の浴室。小判形をした木製の浴槽が時代を感じさせます

対して「小出邸」は、建築家の堀口捨己がヨーロッパ旅行から帰国後に設計したもので、当時ヨーロッパで流行していたデザインと日本の伝統的な造形を折衷したつくりになっています。そのため、浴室は当時の日本の住宅の浴室そのままなのでしょう。けれども、落ち着いた西洋様式の居室や伝統的な畳の部屋と比べると、いささかバランスが悪く、建築時期なりの古くささを感じてしまいます。


つくり手の意識が生み出す「長く暮らせる家」

このように浴室ひとつとっても、建てられた時期には関係なく、つくり手の意識によって長く快適に過ごせる空間やデザインにもなりますし、また、その時期だけしか通用しない、短命なモノになってしまうこともあるようです。「長く快適に使える浴室」をつくるヒントを、この3邸からもらったような気がします。最後に現代のすばらしい浴室をご紹介しましょう。これはかなり斬新なプランです。

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これが現代のすごいお風呂。浴槽にはキャスターがついていて、手前の浴室(タイル部分)から、デッキに移動させることができるのです。天気のよい日は特に気持ちがいいでしょうね

今回は浴室のお話でしたが、それ以外にも、キッチンやリビングの空間の取り方、天井高、採光方法、エントランスの造作などなど、「たてもの園」の住宅には、現代の家づくりでも通用するヒントが多く発見できました。それらについては、また、機会があればお話していきたいと考えています。

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