古民家/古民家探訪

大地震も戦争もくぐり抜けた築90年の家(2ページ目)

東京都・文京区に、文化財に指定されている旧安田楠雄邸。大正8年建築され、近代和風建築として評価の高い建物が一般公開されています。随所にこだわりがみられ、住み手の愛着が感じられる建物でした。

大塚 有美

執筆者:大塚 有美

長く暮らせる家づくりガイド

2階の和室は庭の眺めを考慮した客間


2階に上がる階段は、家族用と来客用と2つあります。家族用の階段を上がると書斎として使われていた部屋へ、来客用を上がれば2階の客間へすぐに出られるように設計されています。

2階の客間は12畳半と8畳の続き間となっていて、床の間は一間半の本床で、4面ともツガの柾目を用いた「四方柾目」の床柱です。壁は聚楽壁で、天井の一部には和紙が張られています。

客間"窓
旧安田邸の中で一番の格式の高い客間。窓枠が額縁のように庭の風景を切り取ります。大きく曲がった柏の木は応接間から眺めたときの見栄えを考えて、あえて形付けたものだとか

このお屋敷は約450坪という敷地に広い庭を確保し、紅葉や枝垂桜、柏など、たくさんの植栽が施されています。客間の窓から庭を眺めると、窓枠が額縁のように木々の緑を切り取り、とてもきれいです。きっと楠雄氏が暮らしていたころも、季節によって姿を変える庭の風景が来客の目を楽しませたことでしょう。今も春の枝垂桜は見事で、わざわざ桜の見ごろを狙って訪問されるリピーターもいるようです。

随所に見られる凝った細工やこだわりの造作

この家の建築主である藤田氏は普請道楽と言われた人で、この家を建てるときに工事は急がなくていいから、よい材料を使ってすばらしい家を建ててほしいと希望したようです。施主の希望通りよい材料が使われ、凝った細工やこだわりがいろいろなところにいかされています。施工は現在の清水建設が担当しました。建築当初のカーテンや家具、窓のガラスや襖がほとんどそのまま残っていることからも、この家を買い取り、後に住人となった安田家の人々も藤田氏の思いを引き継ぎ、大切に住み継いできたことがわかります。

随所に見られる凝った細工やこだわりを少しあげてみましょう。例えば、この家は構造材にツガ(栂)が使われているのですが、1階応接室の造作には白クルミが使われています。そこで、クルミにちなんで、無垢の白クルミの柱にクルミを持ったリスが彫られているんです。

リス"欄間
左が1階応接室の柱のリス。クルミを持った愛らしい表情が印象に残りました。右が2階客間の筬欄間。細かい細工が見事です

また、欄間の造作は部屋ごとに違っていて、それぞれとても凝ったつくりになっています。旧安田邸の中で最もフォーマルな客室である2階の和室の欄間は、緻密な組子が美しい筬欄間になっていました。

旧安田楠雄邸はよい材料を使ったお屋敷ですが、良材を使用しただけでなく、愛着をもって大正から昭和、平成に至るまで、大切にされてきたことによってよい状態が維持されてきたのだと思います。私たちも愛情を注ぎながら長く住み継いでいけるようなこだわりのわが家を持ちたいものですね。

東京都指定文化財 旧安田楠雄邸 
住所:東京都文京区千駄木5-20-18
交通案内:東京メトロ千駄木駅より徒歩6分 
電話:03-3822-2699(公開日のみ)
開館時間:10時半~16時(入館は15時まで)
公開日:水曜日・土曜日 年末年始休暇あり
入館料:一般500円(450円) 中・高校生200円 小学生以下無料 
( )内は15名以上の一般団体料金 
財団法人日本ナショナルトラスト会員無料 ほかに賛助団体及び団体会員の場合は400円
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