●始めに言葉ありき
「海辺の追憶」。私が作った新しい田舎の住まいのキーワードです。今思い返すと何とまぁ、照れくさくて気障なフレーズでしょう。でも、田舎暮しへの期待がパンパンに膨らんでいた時期です。ピカピカの建材の匂い、先端の住宅機器、建築家の感性が突出した先鋭的デザインといった、いかにも新築といった住まいは苦手でした。
新しく建ったのに昔からそこにあったように風景に溶け込んでいる外観、初めて暮すのに懐かしい部屋、訪ねてきた友人たちが自分の田舎と錯覚を起こすようなくつろげる時間・・・。こんなイメージの住まいを考えていました。だから「海辺の追憶」。ね、ちょっと気障では無くなったでしょ。住まい造りのスタートは、自分と家族を動かす言葉を見つけることから始めましょう。
●理想の住まいは100000000円!
次はコンセプトブックづくりです。な~に、写真をいっぱい張り付けた、わがままなスクラップブックのことです。カテゴリー分けを「遊ぶ」「食べる」「働く」「学ぶ」「交わる」と、あえて動詞にしました。せっかく設計家とオリジナルの住まいを作るんです。キッチンはプロ仕様の○○社のもの、リビングは○○畳と広く、最新のジェットバスといったハードの知識は彼の方がプロフェッショナル。私はもっぱら、この場所のこの家でこんな暮しがしてみたいと主張しました。日本と外国の建築・インテリア雑誌を掻き集めること数十冊、連夜の切り張り作業でした。住まいの夢のテンコ盛りの完成です。
コンセプトブックを受取った建築家はアゼン!「こ、こんな家。1億円あっても建ちませんよ!」、渡した僕「い、いや。あくまで理想だから、夢なんだから・・・」コンセプトブックは現在も建築家の手元にあり、彼のオフィス専用のプレゼンテーション資料に使っているとのことです。
●建築家のインスピレーション
現在暮している場所に決定するまで、十数ヵ所の土地を見に行きました。ここだ!という地に建築家に無理矢理に同行をしてもらいます。やはりプロフェッショナルのインスピレーションすごい!現場近くの喫茶店でやおらテーブル上のティッシュを掴み取ると、スラスラとスケッチを始めました。「ここは海風がやさしいから、読書が楽しめるテラスが欲しいですね。土地が広く買えるから野菜や花づくりのためにたっぷりとした庭を・・・」効いてる効いてるコンセプトブックが。
大まかなイメージ設計図が出来上った頃、建築家のオフィスでミニチュアの立体モデルを見せてもらいました。真っ白な発泡スチロールで作られた田舎の我が家。夢がグ~ンと具体化します。屋根をパカッとはずすと部屋の間取りも確認できます。建築家は部屋を暗くして懐中電灯を取り出しました。「あの場所はこの方向から太陽が上がり・・・」と、ミニチュアの上部で光を移動させながら「昼間はこの辺で、冬には部屋中に太陽が射込みます。」分かります、分かります。もはや暮している気分です。
建築家と友だちになりましょう。できれば一緒に酒を飲もう。わがままいっぱいの夢を遠慮なくぶっつける。そうすれば、私たちが理想の田舎暮しの住まいを手に入れるために、最大限の努力をしてくれるはずです。
田舎で暮らすのためのレッスンは、失敗しない田舎暮しのための基礎知識として順不同・不定期でシリーズにするつもりです。てんやわんやの体験エピソードを交えて、あなたのお役に立てばとお伝えします。