建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

手塚貴晴+由比さんの「きもちのいい家」(2ページ目)

いつも話題性たっぷりの住宅建築を見せてくれる手塚貴晴+由比夫妻(手塚建築研究所)。その原動力はどこから来るものなのか、手塚さんのご自宅に訪ねお聞きしてみました。新春特別インタビュー、お楽しみください。

執筆者:坂本 徹也

LDKという発想は特殊解?

----ほとんどの人が家は○LDKという発想から抜け切れてないように思います。この状況をどうお感じになられますか?

貴晴:それは無理もないですね。もともと、○LDKという発想は日本のライフスタイルじゃないんですよ。戦後の政策として、せめて○LDKぐらいの水準にしないと、いつまでたっても昔のようにちゃぶ台を片づけて布団を敷いて親子が川の字になって寝るというような生活から脱することができない。部屋数を増やせば最低限の生活は確保できるだろうと。そういうことを考えて○LDKを奨励した。
 だけど、今はもう、みんなそれ以上の生活をしているわけですから、本当はもっといい空間のつくり方があるはずですよね。戦後のバラックから立ち上げた時代はそれでよかったんだけど、それをいまだに引きずってしまってる。今の建築基準法というのは全部そうなっちゃっているんです。今の現状にそぐわない常識というのがいっぱい残っている。

----たとえば、それはどういうものでしょうか?

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限りなく和の空間を感じさせる軒の家
「photo (c) Katsuhisa Kida」

貴晴:たとえば窓一つにしても、どの住宅の窓も壁の中にポコンとはまってますよね。あれは、窓というのはどこかで売っているものを買ってきてはめるものだと誰かが決めてしまったからで、以来、窓は量産品になってしまった。
 だけど本来、日本家屋の窓というのは壁に開いている穴ではなくて、柱から柱までの間で、開けたいだけ開けられるというのがよさだったんです。だから和の空間は、暑い夏に対応できたわけです。それを今のような小さな窓にしちゃったから、暗くて空気の籠もる家ばかりになった。

 私の家なんか、昼間に電気をつけることなんかないですから。みんな昼間にも電気をつけるのがふつうだと思っている。そこからもう間違いが生じてるわけで、みなさんが常識だと思っていることがじつは常識じゃないということが多々あるわけです。そこを、もう一度、原点に立ち返って考えていきたい。

家は夫婦の時間を軸に考えるべき(由比さん) 由比:家族って、○LDKというもので測れるものじゃないと思うんです。子どもに、子ども部屋が必要な期間ってどれぐらいかと考えると、だいたい10年ぐらいでしょう? それにくらべて夫婦の時間って、もっとずっと長いんですよ。
 本来は夫婦の時間を軸に考えるべきなのに、そんなに長くいない子どものために無理をして部屋をいくつもつくらなくてもいいと思うんです。それに子ども用の個室なんかないほうが、家族関係が密になるだろうし、年をとってから住みやすい家のほうがいい。だから、子どものいる10年間をどう乗り切るかを、ちょっと工夫してあげると。それぐらいが日本の家族には合っているように思うんですね。

----もしかしたら、今の住宅の在り方というのは、日本の核家族化とか少子化に大きく影響しちゃってるかもしれないですよね。ニートの問題とか…。

貴晴:けれども、いい空間というのは、体験したことがないとなかなかわからないところがあって、これまでずっと小さな家にしか住んだことがなくて、海外にも行ったことがなければわからないと思うんです。それが最近はみなさん、ほとんどの方が海外に行かれていい空間を体感してこられる機会が増えて、「もっといい空間に住みたい」と思われるようになってきた。それが今の建築家ブームに繋がっているんじゃないでしょうか。

由比:いいものを知るためには、なにより体験が必要ですよね。○LDKが悪いと言われても、どうしてこれが悪いのか…本当に美味しいものを食べたことがない人に、こんな美味しいものがあるんですよと言っても、なかなか伝わらないのと同じ。そういう一つ上の良質とか、絶対的価値というものが存在するんですよということですね。

 コンビニのお寿司しか食べた経験がない人には、もっと美味しいお寿司が築地にあると言っても、それがどんなものかが瞬時にはイメージできませんよね。それと同じで、もっと大きな世界があるのに、多くの人は体験がないためそれに気がつかない。

貴晴:○LDKというのは、戦後、上から押しつけられた虚像だと思うんです。前に学生から質問を受けたことがあるんですが、「一般の人はみんな○LDKの家が欲しいと思っているのに、そうじゃない建物をつくっちゃうとそれは特殊解になっちゃうじゃないですか」と。
 そのとき、ぼくは言ったんですよ、きみの言うその○LDKという発想自体が特殊解だってことをきみは知らないでしょうと。きみは本当にそういう家が日本にふさわしいと思っているの?と。家ってほんとはそういうものじゃないのに、みなさんそれに気がつかなくなってしまってるわけです。

高気密高断熱が日本の家をダメにする

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高気密の真逆をゆく空を捕まえる家
「photo (c) Katsuhisa Kida」

貴晴:今、ぼくが痛切に感じているのは、高気密高断熱の家が問題になってきてることですね。じつはぼくは、この高気密高断熱が日本の家の環境をずいぶん悪くする要素だと思ってるんです。
 日本の家って、昔から低気密なんですよ。だから換気ができる。高気密高断熱の家というのは、かんたんに冷房がきくというのを前提につくったわけです。ぼくたちとしては、低気密高断熱というのが、少なくとも関東から南の地域ではいいと考えているんです。夏の暑い日射しを遮るためには高断熱が必要なんですが、それより先にまず家はいっぱい開いていることが大切で、やはり低気密なんですよ。

 フランスのボルドーに行ったとき聞いた話ですけど、そこにEUの基準が導入されたんですね。基準というのは、建物は環境にやさしくなくちゃいけないんだと。だから高気密高断熱にして、しっかり暖房がきくよう窓の面積を制限して、どうしても大きな窓にしたければ三重のはめ殺し窓にしなさいと。で、問題はボルドーって、それまでほとんど冷房なんて使っていなかったのに、今ではみんな冷房をつけるようになった。冷房をつけなきゃいられないからです。
 結果、冷房の使いすぎで電力需要が上がって電力会社がパンクして、環境型の建築をつくったはずが、じつは電力需要を増やしてしまった。高気密高断熱が本当に環境にいいのかについてきちんと検証をしないで、先にそれだけが決まってしまったことの弊害ですね。

img2気持ちのいい家をつくりたい(貴晴さん)  たとえばこの家などは、開け放つとすごく気持ちがいいでしょう? ところがみんな高気密高断熱にして、年中冷房か暖房をつけっぱなしにしている。しかも換気を切ることができないんです。おかしいですよね。高気密高断熱というのはほんとは、環境負荷を減らすために考え出されたはずなのに、じつはずっと機械のモーターを回し続けなくてはいけない家にしてしまった。こんな馬鹿な話はないですよね。

由比:日本家屋は「夏を持って旨とすべし」と言いますけど。風通しさえよければ、夏にエアコンなんてかける必要なんてないはずなんです。いっぽう、暖房をするのはじつに簡単なんですよ。薪ストーブをひとつリビングに置いて空気を循環させればね。

 あと、私たちが大切にしているのは、窓を大きく開けてもプライバシーが守られることですね。景色がよければ開けたくなりますが、外からの視線を気にしなくてもよいというのが基本だと思うんです。そうすると、回りを囲まれていると空にしか開けない。だから空に思い切り開くということです。さらにいえば、光というか明るさはすごく大切ですね。明るくて風通しがよいことは基本だと思うんです。

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窓を開けてもプライバシーが気にならないメガホンハウス
「photo (c) Katsuhisa Kida」

貴晴:日本って、東京などは1年の3分の2ぐらいは窓を開けて暮らせるんですよ。そこに冷暖房を使うことを前提としてそこに焦点を合わせることが変なんです。ほとんど冷暖房を使わなくてすむ環境があるんだったら、そういう建築をつくればいいじゃないですか。それを世界標準だからとかいって同じ基準でやらせるのは間違っているんです。

 もちろん北海道なら、ぼくは寒さに対応する住宅建築をやりますよ。でもね、北海道ってけっこう環境がいいんですよ。冬暖かくするのは大事だけれど、同時に気持ちのいいときには開け放って暮らせる気密性のよい建物を考えるでしょうね。そんな北海道でも、法律上は機械によって2時間に1回は全部空気を入れ換えるという決まりがあります。しかもスイッチを切ってはいけないことになっている。まるで水槽の中の金魚ですよね。たとえ北海道だって季節のよいときは窓を開けたい。冬はともかく、夏で窓が開いているのに換気扇が動きっぱなしなのは変ですよ。ましてや東京の小住宅で24時間機械換気が正しいとはとても思えません。

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