LDKという発想は特殊解?
----ほとんどの人が家は○LDKという発想から抜け切れてないように思います。この状況をどうお感じになられますか?貴晴:それは無理もないですね。もともと、○LDKという発想は日本のライフスタイルじゃないんですよ。戦後の政策として、せめて○LDKぐらいの水準にしないと、いつまでたっても昔のようにちゃぶ台を片づけて布団を敷いて親子が川の字になって寝るというような生活から脱することができない。部屋数を増やせば最低限の生活は確保できるだろうと。そういうことを考えて○LDKを奨励した。
だけど、今はもう、みんなそれ以上の生活をしているわけですから、本当はもっといい空間のつくり方があるはずですよね。戦後のバラックから立ち上げた時代はそれでよかったんだけど、それをいまだに引きずってしまってる。今の建築基準法というのは全部そうなっちゃっているんです。今の現状にそぐわない常識というのがいっぱい残っている。
----たとえば、それはどういうものでしょうか?
「photo (c) Katsuhisa Kida」 |
貴晴:たとえば窓一つにしても、どの住宅の窓も壁の中にポコンとはまってますよね。あれは、窓というのはどこかで売っているものを買ってきてはめるものだと誰かが決めてしまったからで、以来、窓は量産品になってしまった。
だけど本来、日本家屋の窓というのは壁に開いている穴ではなくて、柱から柱までの間で、開けたいだけ開けられるというのがよさだったんです。だから和の空間は、暑い夏に対応できたわけです。それを今のような小さな窓にしちゃったから、暗くて空気の籠もる家ばかりになった。
私の家なんか、昼間に電気をつけることなんかないですから。みんな昼間にも電気をつけるのがふつうだと思っている。そこからもう間違いが生じてるわけで、みなさんが常識だと思っていることがじつは常識じゃないということが多々あるわけです。そこを、もう一度、原点に立ち返って考えていきたい。
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貴晴:今、ぼくが痛切に感じているのは、高気密高断熱の家が問題になってきてることですね。じつはぼくは、この高気密高断熱が日本の家の環境をずいぶん悪くする要素だと思ってるんです。
日本の家って、昔から低気密なんですよ。だから換気ができる。高気密高断熱の家というのは、かんたんに冷房がきくというのを前提につくったわけです。ぼくたちとしては、低気密高断熱というのが、少なくとも関東から南の地域ではいいと考えているんです。夏の暑い日射しを遮るためには高断熱が必要なんですが、それより先にまず家はいっぱい開いていることが大切で、やはり低気密なんですよ。
フランスのボルドーに行ったとき聞いた話ですけど、そこにEUの基準が導入されたんですね。基準というのは、建物は環境にやさしくなくちゃいけないんだと。だから高気密高断熱にして、しっかり暖房がきくよう窓の面積を制限して、どうしても大きな窓にしたければ三重のはめ殺し窓にしなさいと。で、問題はボルドーって、それまでほとんど冷房なんて使っていなかったのに、今ではみんな冷房をつけるようになった。冷房をつけなきゃいられないからです。
結果、冷房の使いすぎで電力需要が上がって電力会社がパンクして、環境型の建築をつくったはずが、じつは電力需要を増やしてしまった。高気密高断熱が本当に環境にいいのかについてきちんと検証をしないで、先にそれだけが決まってしまったことの弊害ですね。
由比:日本家屋は「夏を持って旨とすべし」と言いますけど。風通しさえよければ、夏にエアコンなんてかける必要なんてないはずなんです。いっぽう、暖房をするのはじつに簡単なんですよ。薪ストーブをひとつリビングに置いて空気を循環させればね。
あと、私たちが大切にしているのは、窓を大きく開けてもプライバシーが守られることですね。景色がよければ開けたくなりますが、外からの視線を気にしなくてもよいというのが基本だと思うんです。そうすると、回りを囲まれていると空にしか開けない。だから空に思い切り開くということです。さらにいえば、光というか明るさはすごく大切ですね。明るくて風通しがよいことは基本だと思うんです。
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貴晴:日本って、東京などは1年の3分の2ぐらいは窓を開けて暮らせるんですよ。そこに冷暖房を使うことを前提としてそこに焦点を合わせることが変なんです。ほとんど冷暖房を使わなくてすむ環境があるんだったら、そういう建築をつくればいいじゃないですか。それを世界標準だからとかいって同じ基準でやらせるのは間違っているんです。
もちろん北海道なら、ぼくは寒さに対応する住宅建築をやりますよ。でもね、北海道ってけっこう環境がいいんですよ。冬暖かくするのは大事だけれど、同時に気持ちのいいときには開け放って暮らせる気密性のよい建物を考えるでしょうね。そんな北海道でも、法律上は機械によって2時間に1回は全部空気を入れ換えるという決まりがあります。しかもスイッチを切ってはいけないことになっている。まるで水槽の中の金魚ですよね。たとえ北海道だって季節のよいときは窓を開けたい。冬はともかく、夏で窓が開いているのに換気扇が動きっぱなしなのは変ですよ。ましてや東京の小住宅で24時間機械換気が正しいとはとても思えません。