8×8×8の家は凛として建つ シンメトリーな形状が美しい8×8×8mの家 横浜市営地下鉄・蒔田駅から歩くこと10分。閑静な住宅街の一画に鈴木信弘さんの設計によるその家は“凛”として建っていました。外観はいたってシンプルな“箱”のイメージ。「8×8×8mの正四面体の方形ボックスにすべてをパッケージした」という鈴木さんの言葉どおり、よけいな枝葉を取り払ったその様は、建て主さんの「凛とした住まいにしてほしい」との願いをそのまま体現した潔い建物になっていました。 白大理石の敷かれたピロティ同じく1階にある書斎兼オフィス 1階は白大理石の原石を輪切りにしたまま敷き詰めたカースペースと書斎(オフィス兼用)。ここには建て主の趣味であるバイクとクルマが置かれ、それを愛でながら読書や仕事に取り組む場所として機能するのだとか。なんでも床の大理石は、建て主さん自身が岐阜の採石場から直接取り寄せられたものだそうで、その独特の質感や落ち着きある風合いに建て主さんのこだわりが強く感じられました。こうしてつくられた、お気に入りの空間というのは、長くここに暮らす住まい手にとって、とても意味のある場所になるものですよね。 大きな吹き抜け空間に連なるRCの片持ち階段 四隅にあけた開口部から風と光を呼び込む 夏が過ごしやすい低気密住宅家族の連絡に使われる黒板 いっぽう2-3階は、木造による住居スペースで、これらはすべて吹き抜けになった階段室によって、一連なりの大空間として設計されています。石の肌ざわりの空間から木の香りのする空間へ----。その“におい”の移り変わりも、同じ建物内にありながらシークエンスが変わっていく感覚を味わえてなかなかよいものです。 木とコンクリートが調和するリビングは風の通り道 2階は水回りとLDKで、大きな木のダイニングテーブルを主軸に、キッチンと畳敷きの和の空間が配されていました。どこから来るのか、心地よい初夏の風が頬をなでていきます。よく見れば建物の四隅には、角を落としたような形で開口部がとってあり、そこから常時風が南北(あるいは東西)に抜けていくようです。まさに、高温多湿の日本の気候風土に適応した設計といえそう…。 和室は第二のリビングとしても客間としても機能する四隅の一角を利用してつくられたキッチン 親族の方などが来られたときには客間となる和室の上がり框に座っていると、この家が夏の心地よさを意識してつくられたことがわかります。高気密な住宅ばかりがもてはやされる現在、こうした四隅を開ける低気密住宅は、ある意味大胆ともいえますが、この家の気持ちよさを考えれば、「あえて閉じない」設計もひとつの正解であるように思います。 シンプルな住宅にしてローコストを実現 3階へと続く中空に浮く階段3階からの見下ろし 続いて3階に上がると、こちらはプライベート空間。納戸で繋がった2つの個室----主寝室と子ども部屋、そして主寝室に接続する形でサンルームがあります。残念ながら2つの個室は完全に仕切られてしまわれていましたが、たとえば欄間というかスリット状の窓を上部に付けただけでも、風の通り道ができたのにと思いました。ですが、階段室に沿ってつくられた廊下には2階同様、気持ちよい風が抜けていきます。 南面のサンルームと主寝室北側にある子ども部屋 鈴木さんによれば、「全体のボリュームが500立方メートルもあるため、鞘堂となる外殻をRCとし、窓枠加工、天井造作などの工事点数を抑える努力をするとともに、材料種を抑えたシンプルな住宅にしてローコストを実現した」とのことですが、それを可能にしたのは電気・設備関係の職人さんたちとの綿密な打ち合わせと、躯体工事の精度の高さだったそうです。しかしながら、出来上がった建物を見ればRCと木が見事に調和して、住空間としては快適そのもの。どこがローコスト?という感じでしたね。 よけいな媚びや装飾がない、シンプルだけど住みやすい----そんな意味でも“凛とした家”は、ここに暮らす家族に十分な心地よさと密なコミュニケーションを提供してくれるように思います。 ※今回は写真の大部分を鈴木アトリエからご提供いただきました。 ■設計監理 :鈴木信弘/アトリエ ■施 工 :前川建設 ●建築面積:65.61 m2(19.84坪) ●敷地面積:110.35 m2(33.38坪) ●延床面積:163.21 m2(49.37坪) ●構 造 :RC造、地上3階建て※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。