廉価な天然トラフグの旨味
JR浜松町駅から徒歩7分。大型ビジネスビルと町工場がアンバランスに林立する一角に、ふぐ料理専門の「ふぐ省」がぽつんと佇んでいる。「小野ちゃん、ふぐの美味しい店があるんだけど行かない?」
「いやー、正直言ってフグってあまりピンときたことがないのよ。っていうか納得する店に出合ったことがないんだよね」
「まあ、そう言わずにちょっとつきあいなよ」
上「とらふぐの刺身」3500円。中「ふぐちり」ランチ1000円、夜は1800円。下「雑炊」。 |
と友人に連れて行かれたのがこの店だった。一昔前のことである。
店内はフグを食べさせる店とはおよそかけ離れていて、真空管アンプ、オープンリールなどのオーディオ機器がデコレートされ、4人掛けのカウンターの土台が、なんとスピーカーになっている。どう見ても洋風居酒屋か、バーといった趣なのだ。まずはビールを一杯、そして「てっさ」(フグ刺し)をなにもつけずに味わえば、凝縮した旨味に驚かされた。
「これは別物だな……」
「これが正真正銘の天然のトラフグ」
とご主人の江口氏が話しかけてくる。かつては下関で、フグの卸業を営んでいたそうである。