パリの「ステラ・マリス」でも出されるスペシャリテ。
また、もうひとつのスペシャリテは、「サーモン・ミキュイ ステラマリス風」。これは、パリの「ステラ・マリス」でもしばしば出される逸品。低温でじっくり火を入れ、レアとのギリギリの境目にしたスモークサーモンを、じゃがいものパンケーキとともにアレンジしたメイン。
スモークの匂いは時として、しつこく感じることがありますが、このひと皿がそうならないのは、サーモンの上に添えられたレモンクリームもさることながら、スモークとうまくマッチする、スッキリした苦味のクレソンのソースで仕上げているから。
また、傍らには、マジョラムで香りづけしたトマトのマーマレードや、エストラゴン風味にしたカブも添えられ、味を何度もリセットしながら愉しめる工夫がなされています。
クレソンもそうですが、ハーブも決して控え目ではないので、「これだけ使うと、ちょっと油断すると、あっという間に味が思わぬ方向にいってしまうことはないですか?」と、吉野シェフからこちらのキッチンを預かる嘉藤貴士シェフに聞いてみたところ、答えは、その前段階にありました。
と言うのも、ハーブは料理をしながら味を整えていくと言うより、まずは触った感じが、モノを言うのだそう。
「ハーブは、入った日によって、全く状態が違い、木みたいに固くて、匂いが強い時もあれば、やわらかくて、いかにも料理に馴染みそうな日もある。匂いと手触りが、その日使う量を教えてくれるのです」。五感で味わうとはよく言うけれど、作るのもやはり五感ですよね。
私は苦手。でも「タテル ヨシノ」を知る上ではずせない逸品。
ただ、この前菜とメインの前に出てきた「ヤギミルクのブラマンジェ」は、好き嫌いが分かれるところ。ちなみに、私はダメ。もともとヤギのチーズもダメなので、メニューを見た時、「ヤギ」という文字に一瞬不安はよぎりましたが、やっぱり苦手。
グラスの上の方は、軽くエスプーマされた甘いブラマンジェなので、料理より先に楽しめるデザートといった感じでおいしいのですが、下にいくほど、ヤギの乳特有のきつめの匂いが、もわっと口の中に広がります。
そのため、「混ぜて召し上がって下さい」と最初に言われますが、それでもやはりヤギミルクの匂いはきつい。全部食べた後は、なんだかこの後から出てくるお料理にまで、この後味が影響してしまいそうな気分に。いったい、これをここで出すことに、どういう意味があるのだろう。
と、失礼ながら、正直にそう嘉藤シェフに伝えたところ、嘉藤シェフも取り繕うことなく、「そうなんですよね」。「でも、それでも、これはここで味わってもらいたいメニューのひとつ。総料理長である吉野シェフの生まれ故郷は喜界島なのですが、そこはヤギがとても多い島。だから、夜のアラカルトにも、「ヤギのカルパッチョ」などがあります。なので、これを食べることで、吉野シェフが大事にする風土を感じてもらいたい」。
なるほど。そういう意味合いがちゃんと隠されていたのだと知ると、これもここではなくてはならないひと品、吉野シェフのお料理を知る上では、はずせない逸品なのだということを、改めて知らされた感じです。
「ヤギがダメな人はいるけれど、どうしても食べられないという人は、案外少ないですよ」。おいしいと聞いたものを食べてみるのは簡単だけど、こういう好き嫌いが分かれる料理ほど、本当はトライしてみる価値があるのかもしれません。