自由軒のサンプル
実はこれまでも何度か名物カレーを食べようと思ったことがある。しかし、このサンプルケースを見ているうちに他のものが食べたくなってしまうのだ。なんともおいしそうなものが並んでいる。実際、どれもおいしいのである。自由軒の前にあるサンプルが楽しい |
が、昔と違っていたのはこの行列である。僕が大阪にいた間、こんな行列は見たことがなかった。それどころか、昔は客もまばらで、ビールなど飲んでいる常連客のような人がいたのを記憶している。そんなのんびりした店に、僕はたいていひとりで気軽に入り、セットメニューのようなものを食べて、出た。たいていはそのあとで、書店に行ったり、映画を見たものだ。
これが自由軒の「名物カレー」
この日は1月2日で、訪れた時刻は午後1時をかなりまわっていた。僕の前には十数人は並んでいただろうか。しかし、どんどん列は進んでいく。回転はいいようだ。不思議なのは、店を切り盛りするお姉さんたちであった。僕が見た30年前の光景と同じなのだ。まったく年をとっていないように思える。そして、彼女たちが口げんかをしながら、客を入れ、料理を出す。それがまるで漫才のようで、これを聞くのがまた楽しい。壁にかかる「トラは死んで皮をのこす 織田作死んでカレーライスを残す」という文句とともに織田作之助の写真が掲げられているのも昔のままだ。懐かしいなぁ。
これが自由軒の「名物カレー」650円。安い!うまい! |
前ページで紹介した『夫婦善哉』のなかで柳吉が、ご飯にまむしてあるカレーという表現を見て、僕は自分の勘違いに気づいた。つまり、これはカレーとライスがあらかじめ混ぜてあるものなのだ。僕が玉子を「まぜない」と勘違いしていたのは、「別カレー」というメニューで、これは普通のカレーライスなのだ。
ちなみに現在「名物カレー」と呼ばれているものは、かつては「元祖混ぜカレー」といわれていたもので、カレーとご飯が最初から混ぜてあるというものである。
さて、目の前にやってきた「名物カレー」は、実に不思議な味わいで、まさにカレーとライスがよく混ぜられている。決してドライカレーではない。熱々である。真ん中の玉子を全体によく混ぜ、テーブルの上にあるソースをかけるとさらにおいしくなる。
たぶん、この名物カレーは、独特な味だ。これまでこんなものは食べたことがない美味である。
この店を知って30年が経過し、きょう初めて食べた。不思議な気分だが、明治43年創業の自由軒にとってはわずかな時間なのかもしれない。
余談だが、大阪に1泊したが、翌日もこの名物カレーが食べたくなって再訪問をした。
さあ、次ページでは
法善寺にある夫婦善哉を食べに行きます!