散歩/昭和を振り返る散歩ルート

横浜鶴見線、海の終着駅と消えぬ昭和散策(4ページ目)

横浜のJR鶴見駅から歩いて国道駅へ。幕末、東海道で起こった生麦事件の現場を見て、鶴見線に乗る。そして、海の見える駅「海芝浦」へ。京浜工業地帯に浮かぶコンビナートを見ると、なぜか切なくなった。

増田 剛己

執筆者:増田 剛己

散歩ガイド

鶴見線のホームから海が見える

国道駅から鶴見川を見る。生活に根ざした川として今もゆったりと流れる
再び国道駅に戻り、いよいよ鶴見線に乗る。駅のホームから鶴見川が見える。しばらくすると電車がきた。古い車両なのかと思ったら、新しいごく普通の電車である。乗客は1車両で数人程度。

「ここの駅の名前はもともとなかったんで、財閥の名前がつけられているんですよ」

と言う。へえ。

「たとえばこの『安善』というのは安田財閥の安田善次郎の名前からつけたらしいんですよね」

とのこと。他にもいくつかそういう由来で名前がつけられたらしい。

さて、僕たちは終点のひとつ手前で「昭和」という駅で降りた。いい駅名だねぇ。きっと昭和のイメージのある駅なのだろう。そうNくんに言うと、

「昭和」駅。駅を降りると、そこは工業地帯。基本、降りることはおすすめできない
「いえ、昭和電工があるからこの名前がついたらしいです」

と資料を見ながら教えてくれた。

名前に惹かれて降りてはみたけれど、これは失敗だった。工場地帯であり、なんにもない。ダンプなどが走りぬけ、工場脇にある片側が塀の道をひたすら歩く。そして次の駅である「扇町駅」を目指す。散歩には向いていない。

やっと扇町駅に到着。発車寸前の電車に乗り込もうとすると、車掌さんが「昭和駅から歩いてきたんですか?」と笑顔で言う。さっき降りた車両と同じらしく、乗降人数が少ないため、自然と印象に残るのだろう。そういえば、鶴見線はどこも無人駅である。とはいえどこの駅もスイカをかざす機械があって、これで精算できるので便利だ。

さっきの空いていた車両が嘘のようにどんどん人が乗ってくる。鶴見方面に向かう列車はそろそろラッシュを迎えるらしい。次は「海芝浦駅」を目指す。鶴見線は、本線以外に多くの支線がある。浅野駅で乗り換える。

「海芝浦駅は、駅の出口が東芝の工場の入り口になっているから、原則的に東芝の社員の人しか降りることはできないらしいです。きちんと料金を払えば、下車は可能ということらしんですけど」

とNくん。ふーん。しかし、そこまで行ってホームに下りるだけでいいのか。
海芝浦駅。海に面し、胸になぜか懐かしさと切なさが交錯する

駅に到着。確かに海の上にホームがある感じだ。海の向こうは京浜工業地帯の象徴、コンビナート群が夕闇にぼうっと聳え立っている。Nくんはホームで写真を撮っている。東芝の人が電車に乗り込み、本格的なラッシュが始まりだしたようだ。

Nくんをせかし、電車に飛び乗る。遠ざかる夕景になぜか切なくなってしまう。
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