「take a risk」こそ野茂評価の根源
その95年、私は野茂の登板の全てに立ち会った。野茂の登板が増すごとに、フォークによる三振が増えるごとに、全米中にトルネード旋風が巻き起こり、野茂の人気はうなぎ上りとなった。まだ日本人や日本人の記者が球場に来るのは珍しい時代、アメリカ人は日本人を見れば「ノモ、ノモ!」と叫び、あの独特な投球フォームをマネしようものなら、本気でサインを求めて来た。あれから13年が過ぎたが、アメリカで野茂の人気は相変わらず高い。知名度でいってもイチローや松井秀、松坂よりも高いといえる。それには理由がある。野茂はアメリカ人が最も好む行動をとったからなのだ。
わが娘がアメリカの現地校(女子校)に入学し、初めての参観日に顔を出した時、驚いたことがあった。先生が黒板に問題を書き、「この答えがわかる人?」と言った瞬間、ただ1人を除いた全員が手を挙げた。先生が1人の生徒を指し、その子いわく、「わかりません!」だった。これには開いた口が塞がらなかった。日本人ならもしその答えがわからなければ決して手を挙げないだろう。娘もわからなかったから手を挙げなかった。しかし、答えがわかる、わからないは問題ではなく、誰よりも早く手を挙げ、授業に積極的に参加していることを示すことが重要なのだ。いわゆる「take a risk」(敢えて危険を冒す)という考え方で、通知表にもこの評価が書き加えられる。
もうおわかりだろう。野茂が相変わらず人気も知名度も高いのは「パイオニア」だからだ。敢えて危険を冒して1番手に行動を起した人間は評価が高く、2番手、3番手はさほど評価されない。これがアメリカという国なのである。
日本人にはもちろん、アメリカ人にも多大なインパクトを与えた野茂がまだ投げ続けている。結果はあえて関係ないだろう。自ら切り開いたメジャーのマウンドでの勇姿を目に焼き付けなければいけない価値は十分ある。
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