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ジョー・トーリ監督に学ぶ選手掌握術(2ページ目)

ヤンキース監督としての12年間で12年連続プレーオフへ進み、4度の世界一に輝いたトーリ監督。その選手掌握術は一般の社会(会社)でも応用できる。同時にこの指揮官が最も好む選手(部下)とは、にも触れたい。

瀬戸口 仁

執筆者:瀬戸口 仁

野球・メジャーリーグガイド

3度の解雇の果てに得た人心掌握術

チームのたるみを機敏に気づき、修正していくトーリのマネジメント術は秀逸というほかない
トーリは決して感情を表に出さない。試合中はベンチの決まった場所にどっかと腰を下ろし、チャンスだろうがピンチだろうが表情を変えない。どこぞの監督のようにベンチ内をウロウロしたり、怒鳴り、物に当たったりはしない。「選手はみんな、監督の表情を気にするものさ。でも、ジョーを見ていると我々を信頼してくれているのがわかる」というのは、ヤ軍のキャプテンであるデレク・ジーター内野手だ。

ただし、年に1度だけ雷を落とす。長いシーズン、特に疲れが溜まる夏場はどの選手もたるみ、チーム力は低下する。トーリはミーティングで「ここぞ!」という時に喝を入れ、チームをキュッとまとめる。

「対話主義」「安定感」「タイミングのいい喝の入れ方」、この3点は12年連続でチームをプレーオフへ進出させた秘訣といえるが、何も野球界だけに当てはまるものではなく、一般の会社、家庭でも十分応用が効く部下や子どもの掌握術(管理術)であることは言うまでもない。

もちろん、スーパーエリートのトーリが最初からこのような掌握術をマスターしていたわけではない。メッツ、ブレーブス、カージナルスと3度も監督を解任された経験が大きい。普通、3度解雇された監督に4度目のチャンスは難しいが、トーリは辛抱強く常に野球の勉強を続けていた。また、85年から5年間、エンゼルスの解説者を務めていた時、「話し方教室」に通い、トークを磨いた。それらが今、人の心を掴むことにつながっているのだ。

スランプの短さこそ、一流プレイヤーの証左

さて、トーリのような監督(指導者)が最も使いたがる選手がいる。どのような選手なのか? それは「スランプが短い選手」である。チームにも波があるように、選手にも好不調の波はどうしてもある。しかし、そのスランプを極力短く済ませる方法があり、その方法を知っているのが一流プレイヤーで、監督が使いたがる選手なのだ。

代表的な例は、マリナーズのイチローだ。彼は試合開始の5時間前には球場入りし、外野で黙々とジョッキングと入念なストレッチを繰り返す。室内でティー打撃とウェートトレで汗を流す。基本動作しか行わないが、ここが重要な点。試合でちょっとスランプかなと思っても、そのスランプを追求するのではなく、スランプをひとまず脇に置いて、毎日行っている基本動作の中で微妙にズレている点を見つけて修正する。すると自ずとスランプから脱出できる。チェックポイントが多ければ多いほど、正確にどこを直せばいいかがわかる仕組みなのだ。

これは野球選手に限らず、一般生活の中でも当てはまる。「スランプだなあ」と思ったら、とりあえずそのことは忘れ、基本に立ち帰る。すると脱出法が見えてくる可能性は高い。

トーリがヤンキース監督時代、イチロー獲得を熱望していたが、それはただ単に史上最高の1番打者というだけでなく、「スランプが最も短い選手」であることを見抜いていたからに他ならない。



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