何度も何度も軌道確認をしていた本田
しかし、たとえば4年前の日本対ブラジル戦でジュニーニョ・ペルナンブカーノが見せた一撃のように、GKにとってどうしようもない軌道のシュートが数多かったかというと、実はそうでもないことに気づく。GKの不運を嘆きたくなるシーンは、意外なほど少ない。ここで「高地」というキーワードが浮上する。そもそもコントロールしづらいうえに、会場によって標高差=気圧の違いがあることで、『ジャブラニ』のコントロールに手こずる選手が多かったと思う。直接フリーキックからのゴールが少なかったのも、「ビーチボールのように浮き上がる」と言われる公式球の特徴をつかみ切れなかったことが影響している。
Jリーグは今シーズンから『ジャブラニ』を使用していたが、欧州の主要リーグはすでに契約を結んでいたボールを継続使用していた。ほとんどの選手たちは、『ジャブラニ』に慣れる時間のないまま大会を迎えたのだ。
それだけに、本田のFKは価値がある。大会前のトレーニングを観ているかぎり、彼もまた『ジャブラニ』の軌道を読み切れていないようだった。6月4日に行われたコートジボワールとのテストマッチ後には、「高地と低地で蹴り方を変えてなかったけど、これからは変えるつもりです。(いままでと)同じように蹴っていたら落ちない。落ちるように微調整したい」と話していた。
南アフリカのキャンプ地ジョージに入っても、全体練習後にボールの軌道を確認する姿がみられた。バーを越えていくフリーキックに、納得のいかない表情をのぞかせることもあった。そうしたなかで生まれたのが、デンマーク戦の一撃だったのだ。「フリーキックは才能だけではない。積み重ねたキックの量が才能を輝かせる」と話したのは、80年代を中心に活躍したFKアーティストのミシェル・プラティニ(現欧州サッカー連盟会長)だが、本田のゴールも日々のトレーニングという下支えがあってこそのものだ。
ボールの存在以上に輝いたものとは―
その一方で、決勝戦ではゴールキーパーが輝いた。カシージャスはロッベンとの1対1を二度も阻止し、チームに勝利を呼び込んだ。オランダのステケレンベルクも、延長開始早々に訪れたセスクとの1対1を防ぎ、勝利の可能性をつなぎ止めた。両チームのGKが見せた好セーブは、ボールが存在価値を強める現代サッカーへの強烈なメッセージだったかもしれない。<関連記事>
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