「こんなところで、オレは何をやっているんだろう」
「なぜ前園はファンの期待を裏切り、ひっそりと引退したのか?」単行本の帯に、こんな一文がある。「なぜ」の答えは、僕が考えているものとは違うものだった。それでもゾノさんの偽りのない告白だと、僕は考えている。本音のすべてを引き出せたかどうかは分からないけれど、本音を語ってくれたのは間違いない。僕らが想像できる範囲内でもがいていたからこそ、ゾノさんの悩みや苦しみは、むしろ深かったのではないかといまは思う。
「サロニカにいるときに、よく面倒をみてくれたギリシャ人が、クリスマスに自宅に誘ってくれたんです。『ひとりなんだろう?』って。その人の奥さんと娘さんと一緒に、クリスマスパーティーですよ」
桜が咲き乱れていた4月上旬の午後、ゾノさんがこんな話をした。都内のホテルで取材をしたときのことだった。「それはそれで、寂しいなあ」と返すと、ゾノさんは「そうでしょう」と頷いた。
「なおさら寂しいでしょう。ひとりにさせてほしかったから、かえって寂しい、虚しい気分になりましたね。クリスマスを祝っているような状況じゃないわけだし。こんなところで、オレは何をやっているんだろうって」
そのとき僕は、家族に囲まれて無理やり笑顔を見せるゾノさんと、ホテルに戻ってひとりで思い悩むゾノさんの姿を、はっきりと思い浮かべることができた。
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サッカー日本代表が28年ぶりに立った五輪の舞台、アトランタ。そこにいたるまでの道程を激しく牽引し、自身が放つ輝きで日本中の期待を背負うことになった前園真聖。しかし、その後は順調にいかずひっそりと東欧で引退。これまで明らかにされなかった彼の心の奥に迫る―