塩崎さんと馬肉鍋をつつきながら一杯飲むことにした。
「鍋でもつつきましょう」という言葉通り、鍋をつついた。
だけどつついてばかりだと肉を食べることはできない。
閉店間近になってあわてて食べ始めた。
馬肉でパニック、なんてね…。
「ボクは故事やことわざをイメージして、デフォルメして描くのが好きなんですよ。ギャグからイメージするのも面白いですね。たとえば『フトンがふっとんだ』からイメージすると、マンションの谷間にフトンが ふっとんでいる光景が浮かんできます。『ストーブがすっとぶ』というのもいいですね。 いろんなシチュエーションが浮かんできます」
フトンがふっとんだ、なんてギャグはいまどき耳にしない。
そんなオヤジギャクを言ったらどんなに場が凍りつくか計りしれない。
だけど絵になるとかなり期待がもてそうな気がする。
ああ、ストーブはどうやってすっとぶのだ。
「以前グループ展をやっていたら、外国人の若者が会場にふらと入ってきて、ボクの絵の前で立ち止まりフンッて感じで笑ったんです。その時、おお、これだ、と思いましたね。 もっともっとみんなに笑ってもらおうと。だからいつもネタ帳を持っていておもしろそうなネタが浮かんだら書き留めておくんですよ。若手芸人の心意気です」
塩崎さんの「お笑い日本画」の作品ファイルを見てみた。
どこか大真面目な気がする。
またまた重大な真実を発見したような気になった。
どうやらこのお笑いは奥が深そうだ。
「ホームページに載せている作品のなかで、けっこうアクセス数が多いのが『漁夫の利』という作品なんですよ。 これは、シギとハマグリが争って動けなくなっているところに、漁師が通りかかって 両方捕らえてしまうという故事をイメージして描いたものなんですが、 原文のままじゃ面白くないので、シギといろいろな種類の貝との組み合わせをためしてみたんですよ。 だけど結局シギ相手はハマグリじゃないとピシッとこないんですよね。アサリじゃやっぱりだめなんですよ」→「漁夫の利」
結果は同じでも、たどり着くまでには行く通りもの道筋がある。
幾多の紆余曲折の末選択した道は唯一の成果を生むことになるだろう。
それはどんなことにだってあてはまる。
彼が日本画で描いていること自体、その末の回帰なのかもしれない。
しかしこの「漁夫の利」の場合、結果は最初からみえていた。
残念ながらシギの相手としてアサリは適役ではない。
アサリでは動けなくなるまでシギと争えない。
アサリだけにアッサリあきらめてしまうから…。なんてね。
塩崎顕(しおざき・けん)/1972年東京都町田市生まれ。1997年多摩美術大学大学院美術研究科修了。
「高校生のとき伊藤若冲の作品を見て、ボクもすばらしい動物画を描こうと思って日本画を志したんですよ」
→塩崎顕ホームページ