▼佐藤美術館の奨学生制度は開館以来12年続いていますから、ずいぶん多くの学生が巣立っていったでしょう。
うちの奨学生は、現在11期生17名と12期生17名に奨学金支給を行っている最中で、第1期生から現在までの奨学生を合わせると202名となります。日本画だけではなく、油画、版画の方もおります。
▼その奨学生を学生の頃から卒業後の活動までずっと見守っているわけですから、大変な毎日ですね。なんといっても悩み多き年頃ですから…。これから絵描きの道を選択しようかどうか、なんていう悩みはそうあるものじゃありませんからね。
いいえ大変なことはないですよ。幸いなことに今まで僕が巡り合った若い画家たちは皆すごくまじめというかひたむき!逆に僕の方がかれらからエネルギーをもらっているかもしれませんね。毎日エキサイティングな経験をさせていただいていますよ。(笑)
▼それに加えて、立島さんは卒展などを積極的にご覧になって、奨学生以外の学生とのコンタクトも常に求めていらっしゃいますが、どんなきっかけで知り合うのですか。
いろいろですよ。先月も北海道からわざわざ絵を持ってきた方もおりましたし…。ちょっとおもしろいエピソードがあるのでお話しましょうか。
10年前から追いかけているK.Fさんという日本画家がおります。彼に初めて会ったのは、大学院の修了制作展。素晴らしい可能性ときらめきをもった作品だったのですぐその場で声を掛けて友達になったのです。
ことあるごとに会って作品を見せて頂いたり、展覧会で絵が売れないと悲観しているのをお酒呑みに連れてってなぐさめたりしていました。僕より少し若いので弟みたいな存在なのです。
昨年のことでしたが、彼の個展がありまして初日に行った時「またもし売れなかったら…」と心配していたので「その時は美術館で購入してあげるよ」と冗談で言っていたのです。ところが会期終了後に連絡があって作品が全部売れたという吉報!すごく嬉しくて、一緒に祝杯あげた、なんてことがありました。
現在とても活躍している若手日本画家ですよ。
▼そういう出会いと付き合いはいいですよね。佐藤美術館の奨学生は全国の美術系大学の指導教官によって推薦されているので、美術業界的に言えばこれから順調に成長していく将来性豊かな学生ということになりまが、どんな世界でもその枠から外れてしまう才能というものはあるもので、芸術の世界ではむしろそんな人のほうが面白いかもしれません。そんな学生たちに対する活動の支援があるといいですね。
そうそうそれが大切ですね。大学から推薦された画家はほんの一部です。ですから僕たち自身の足で作品と画家を常に追いかけています。絵を志すのは美大出身者だけではありませんし、東京や京都の方だけでもありません。
ただ、今のところ残念ながらそういう画家に対する奨学金や助成金のプログラムはないのです。でも、僕たちが活動を見続ける過程の中から何らかの協力なり支援が出来るよう常に心がけています。
▼やはり絵描きには情熱を持って見守ってくれる人の存在が必要だと思います。立島さんはこれから日本画を目指す人にどんなことを求めますか。またどんな活動をすべきだと思いますか。
日本画という言葉、概念にこだわらないで描くことも良いだろうし、逆に素材や歴史的背景などとことん学び、意識して取り組むことも正しいと思います。要は、しっかりとした気持ちで描き続けるということです。
そして、さらにつけくわえるならば、美術というのは見る者の心をいきいきと活性化させるものだと思っていますので、そういうものを目指してくれる画家が一人でも増えてくれることを心より望んでいます。つまり社会的背景を持って描くということですかね。
何か(自分の能力とか)を証明するためとか、誰かを出し抜くためにとかお考えの方は美術をしないほうが良いと思います。そういう方は別の道を!
活動については、そうですね… 「場」に対する意識というか自覚を持つことですね。「空間」ではなくて「場」ですよ。その「場」に作品を提示する意味をしっかり持って挑んでもらいたいと思います。あとは継続ですね。大変でしょうけど、つくり続けること!そして提示し続けることです。