企業年金は今ある積立額は守られるが、給付削減はありうる
何らかの年金支払いの定めがある制度を企業年金制度といいます。企業年金制度の特徴は、将来の支払いの原資を毎月計画的に外部積立することです。これにより、退職一時金制度と比べて退職給付の原資が保護される体制が整っています(具体的には、適格退職年金、厚生年金基金、確定給付企業年金を企業年金という)。これは退職金と比べて企業年金の大きな特徴です。ただし、将来の給付を減らす、という選択を行うことはあります。無断で行うことはできず、基本的に労働組合の合意や社員の個別同意などが求められるものの、経営が著しく悪化している場合など、やむを得ない場合には給付の引き下げを行うことがあるのです。会社としても雇用が維持できなかったり、毎月の給与を引き下げたりする状況にあって、企業年金の給付だけ約束を守ることが難しいからです。ただし、引き下げがやむを得ない状態であるかは、厚生労働省が審査を行います。一方的な場合は認められないこともあります。(※)
ただし、企業年金制度は、企業の破綻について強いのが特徴です。今ある積立資産については従業員とOBの支払いのためにのみ用いられます。会社が資金繰りが苦しいときに勝手に企業年金の積立金を解約することは不可能ですし、会社の借金と相殺するようなことも認められない仕組みになっています。100%保全とまではいかないものの(積立不足があることが多いため)、破綻時においてはかなりの額を受けられる可能性があります。
(※厚生年金基金、確定給付企業年金はそれぞれ引き下げについて法的根拠があり厚生労働省の判断が行われますが、適格退職年金は減額に関する明確な法的規定がないため、前述の退職金引き下げのルールが援用されることがあります)
401kは自己責任だが、減らされることはない
ところで、企業型の確定拠出年金(日本版401k)はこうした削減についてはもっとも安定的な制度です。ひとりひとりの401k口座に入金された資産は入金の時点で個人の持ち分として権利が確定します。勤続3年未満で退職した場合のみ、返還を求められることがありますが、3年を超えればどのような理由であっても積み立てられた資産が減ることはありません。自己都合で辞めても1円たりとも減らされることはありませんし、会社が景気が悪くなっても今まで積み立ててきた資産が減らされることは一切ありません。来月以降の掛金について引き下げを行ったり、停止されることはありますが、これも一方的には行えず、労使合意を行い、規約の変更案を作成し、厚生労働省の認可の上で行わなければなりません。
会社が倒産しても同様に、401kの資産は保護されます。一人一人の権利は1円たりとも会社の借金の状況に影響されません。(ちなみに資産を管理する信託銀行等が倒産しても分別管理される体制が整っており、保護される仕組みになっている)
確定拠出年金は資産運用を自己責任で行わなければならないため、会社員に厳しい制度だと思われていますが、実は社員にとって安全な側面もあるわけです。
まとめ:「約束」の保証はとても難しい
結論を簡単に言えば、「約束を保証することは難しい」ということです。労働者の権利を守ることはとても大切なことですし、そうした制度の枠組みもあるわけですが、何の制約もなく約束が完全に守られる、ということはありません。景気が良く、企業も成長している時代にはそうした「約束」の実現は確実といってもよかったわけですが、景気が悪化しているとき約束は不確かなものになってしまいます。会社の業績が悪化したとき、破綻したとき、優先されるのは雇用の維持であり、毎月給与が支払い続けられることです。そのとき、退職金や企業年金が後回しになってしまうことはやむを得ないことです。(もちろん、そうなって欲しくないのはやまやまですが)
ただし、引き下げられた退職金や企業年金が、未来永劫に減らさたままとは限りません。業績が回復した際に、一度引き下げた水準を回復することはありえますし、実際に行われることもあります。
約束を最後に守るために必要なのは、会社がしっかり稼ぐことであり、その実現は経営者だけでなく、ひとりひとりの社員も負っているといえます。(なお、退職金が減った後に退職した人は、退職金の水準回復に立ち会うことはできないといえます)
万が一、みなさんの会社で「退職金/企業年金の引き下げ」という話が出てきたときの参考になれば、と思います。