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津村記久子の最新刊“アレグリア”とは?(2ページ目)

今年は2回連続で芥川賞候補にノミネートし、『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞を受賞するなど大活躍だった津村記久子。その最新作『アレグリアとは仕事はできない』は働く大人必読の1冊だ!

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

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他人事じゃない! 「地下鉄の叙事詩」

アレグリアとは仕事はできない
<DATA>タイトル:『アレグリアとは仕事はできない』出版社:筑摩書房著者:津村記久子価格:1,470円(税込)
芥川賞候補作になった『婚礼、葬礼、その他』の単行本に収録された「冷たい十字路」という作品がある。通勤通学の途中で起こった“事件”を、現場にいた人々、それぞれの視点で描き、だんだん全体像が浮かび上がるという構成だ。「地下鉄の叙事詩」も同じ形式で書かれている。

4人の語り手は、満員電車に乗って学校や職場へ向かう人たち。見知らぬ他人と密着するのは苦痛だけれど、乗らないわけにはいかない。また、そんな毎日に慣れてしまってもいる。まず、身動きできない空間で、1人ひとりが考えていることを詳細に描いていくところが面白い。

例えば最初の語り手の大学生はこれから苦手な英語教師の講義を受けなければならないことを忘れるため女の裸を想像し、2番目の語り手の会社員は格差社会について考えつつ以前同じ電車で近くに立っていた女性が読んでいた官能小説の「君の肌は、まるでシルクが呼んでいるようだ」というセリフを思い出す。

それぞれの語り手の交差のさせ方も巧いし、“事件”はまったく他人事じゃないなと思える。朝、電車に乗っているときに、細部がよみがえってきそうな小説だ。

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