他人事じゃない! 「地下鉄の叙事詩」
<DATA>タイトル:『アレグリアとは仕事はできない』出版社:筑摩書房著者:津村記久子価格:1,470円(税込) |
4人の語り手は、満員電車に乗って学校や職場へ向かう人たち。見知らぬ他人と密着するのは苦痛だけれど、乗らないわけにはいかない。また、そんな毎日に慣れてしまってもいる。まず、身動きできない空間で、1人ひとりが考えていることを詳細に描いていくところが面白い。
例えば最初の語り手の大学生はこれから苦手な英語教師の講義を受けなければならないことを忘れるため女の裸を想像し、2番目の語り手の会社員は格差社会について考えつつ以前同じ電車で近くに立っていた女性が読んでいた官能小説の「君の肌は、まるでシルクが呼んでいるようだ」というセリフを思い出す。
それぞれの語り手の交差のさせ方も巧いし、“事件”はまったく他人事じゃないなと思える。朝、電車に乗っているときに、細部がよみがえってきそうな小説だ。