自転車ロードレースと青春小説の魅力が見事に融合近藤史恵『サクリファイス』
自転車ロードレースを見たことがなくても興味が湧き、青春ミステリーとしても楽しめる! 本屋大賞や年末の各種ベストテンでも注目を集めそう。 |
自転車ロードレースには、エースとアシストという役割分担がある。チームの中で最も実力のある選手がエースになり、アシストはエースを勝たせるために全力を尽くす。たとえ自分の順位が下がっても。
どんなスポーツでも勝たなきゃプロとしてやっていけない。だけど、自転車は違う。自分が勝たなくても、走ることができる。
そこに惹かれて、誓はオリンピックも狙える選手だったが陸上を辞めた。スポーツ小説なのに、主人公は「自分が勝つこと」を重荷に感じているという設定なのだ。そこがまずおもしろい。大学を卒業して「チーム・オッジ」にスカウトされた誓は、チームのエースで坂道を得意とする石尾、自分と同期で次のエース候補といわれる伊庭に出会う。
石尾にはある噂があった。有望な若手をレース中に事故にあわせ、再起不能にしたというのだ。しかし誓から見た石尾は、自転車のことには厳しいが普段は物静かで、後輩への気遣いも欠かさない。とてもそんな卑怯なことをするようには見えない。ところが「ツール・ド・ジャポン」にアシストとして参加しながら思いもよらない好成績を上げた誓は、不穏な空気を感じるようになる。
やがて起こる惨劇、そして驚愕の真相!