直木賞松井今朝子『吉原手引草』
吉原一と名高い花魁葛城が身請けの直前に姿を消した! いったい、どうやって? そしてなぜ――。16人の証言から、事件の真相が浮かび上がる。 |
■読みどころ
・吉原の風俗描写
廓で働く人々の役割分担、客が花魁に会うまでのシステム、かかるお金など、江戸随一の歓楽街・吉原の様子が詳細に、しかもわかりやすく紹介されている。花魁の肢体のエロティックさ、衣装の美しさも楽しめる。
・多彩な語り口
遣手(やりて)、床廻(とこまわ)し、幇間(たいこもち)など、会う人の職業ごとに話し方がまったく違うのがおもしろい。花魁といえば思い出す「ありんす」言葉は、彼女たちは地方出身が多かったので、なまりをなくすために作られたのだとか。
・魅力的な謎とあっと驚く結末
葛城が消えた方法は単純なのだが、動機がすごい。客のフリしていろんな人に事件のことを聞いてまわっている「色男」の正体も気になる!
人の心は深き井戸。身を乗り出して覗いても、暗(くろ)うて底は見えぬものざます。
という葛城のセリフが、この物語を象徴している気がする。葛城の“深き井戸”、ぜひ覗いてみてください。
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タイトル:『吉原手引草(よしわらてびきぐさ)』
出版社:幻冬舎
著者:松井今朝子
価格:1,680円(税込)
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