アニメ「フランダースの犬」の「どこが好きか」と尋ねられ、「ネロに親がいないところ」と答える少年・由良に多田は、こう言う。
「いくら期待しても、おまえの親が、おまえの望む形で愛してくれることはないだろう」
――
この言葉に潜められた刃は、多田、行天それぞれの過去にもそれぞれの形でぐさりと突き刺さっているのだ。
親が子を愛さない、あるいは愛せない・・・
あまりに残酷な宿命のもと、人は、それでも希望をもって生きていけるのか。いけるとしたら、希望の源泉はどこにあるのか。
この問いかけに、著者が出した答え(あるいは、出さなかった答え)。それは、読む者ひとりひとりが、本作を読んで「感じる」ものだと思う。
■都会ではなく田舎でもない「郊外」の町の空気、風が行間に流れる。作品世界としてのリアリティーが魅力
とまあ、直木賞受賞には、このようなテーマ性が評価されたのではないかと推察する。だが、個人的には、テーマうんぬんより、「まほろ市」という架空の郊外の町の風や空気を感じられるのが、本作の魅力だと思う。
都会と田舎、どっちつかず、「郊外」としかいいようのない街。
駅前にはデパートがあり商店街がある。なんでもある。そして、線路一本隔てると、「駅裏」と言われる怪しげでうらぶれた歓楽街・・・
この街で、やさぐれの多田や行天が煙草の煙とともに吸い込んでいる風や空気が、行間に確かに流れている。
祝・直木賞!
えらくなっても、どうか、「文科系腐女子」代表でいてください。
この本を買いたい!
第135回直木賞は、森絵都&三浦しをん。芥川賞受賞の伊藤たかみに。芥川・直木賞についての情報チェックは「芥川・直木賞受賞作を読む」で
本作と並び、直木賞を受賞した『風に舞い上がるビニールシート』(森絵都)は既に紹介済み!こちらもぜひどうぞ
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デビュー前から日本人作家・著者のための著作権エージェント「ボイルドエッグズ」のWebマガジン「Boiled Eggs Online」で「しをんのしおり」を連載していた著者。同エージェント主宰の新人賞の審査員も勤めています。
審査員といえば、今年から、こちらの賞も。「コバルト短編新人賞」。少女小説の老舗中の老舗、「受賞者には担当編集がつき、熱くサポート」これも伝統です。ちなみに、前の審査員は、花村萬月さん。ちょっと意外な感じも・・・
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