■「日常の裏側」である温泉。そこに人々が持っていくものは・・・短編集としての構成も見事!
考えてみると、温泉旅行は、さまざまな旅の中でも一種、特殊なものなのかもしれない。人は、日常から抜け出すために人は旅をする。日ごろ味わえない景色、体験、食事・・・旅は、程度の差こそあれ、「非日常」だ。
だが、温泉旅行は、どうだろう。考えてみるとそれは、「湯に入る」という、日本人の多くにとっては極めて「日常」的な行為のための行動なのだ。 そのせい、というわけでもないのだろうが、温泉は、「日常」と完璧に隔てられているのではなく、どこか「日常」とつながっているように思える。
そう、表題作の冒頭にあるように「日常の裏側」なのだ。
この作品集の登場人物は、温泉旅行で「非日常」にワープすることはできない。そこは、あくまで、「日常の裏側」。「日常」という時間の積み重さねの中でできた傷や痛みを抱えたまま、そこにいるのだ。
近しい人との間にできた亀裂、しのびよる閉塞感や空虚感・・・彼らは、そんなものと湯けむりごしに対峙する。そのやるせない心象が軽みと乾きが絶妙にブランドされた筆致で描き出されているのである。
一編一編の完成度も、もちろん、高いが、構成も巧い。最終話の高校生カップルの旅を描いた『純情温泉』を読んで、年月を経たカップルの話である『初恋温泉』『風来温泉』を再読してみると・・・、俗な言い方だが、人の心の移ろいの切なさがより染みる。うーむ、「通俗」を確信犯的に武器にするあたり、まさに、手練れの仕事である。
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『最後の息子』で84回文学界新人賞を受賞しデビューした著者。彼もそうですが、この賞から芥川賞へ、という流れは、わりあい定番。ほかにもこんな方が・・・
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