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『押入れのちよ』(2ページ目)

『明日の記憶』の大ヒット、映画化で話題の著者の最新作。明治生まれの少女の幽霊と失業中の男の奇妙な同居生活を描いた表題作はじめ、多彩なテイストのホラーを9編収録。

執筆者:梅村 千恵

■幽霊が最高にキュートな表題作はじめ、生者と死者の間にコミュニケーションが成立する。現象としては「怪談」「ホラー」だが・・・

 この作品集、ホラー作品にありがちな「イヤな」感じの読後感がとても薄い。むしろ、ほんわかとした温かい読後感のあるものが多い(皮肉な結末でそうでもない作品もあるけれど)。
 最たるものは、やはり表題作。自分の失敗をなんでも他人のせいにする、誤解をおそれずに言うなら、いわゆる典型的な「負け組」の主人公のダメっぷりが、まず、ありがちで、笑えてしまう。何より、明治生まれの少女の幽霊である「ちよ」がキュート!ビーフジャーキーを食べて「うまいの」「これはなんの肉だ」「馬かな」、恵太から、現在が明治ではなく平成だと聞いて、「乃木大将がお亡くなりになったからだな」・・・そんな彼女との触れ合いによって、ダメダメな恵太は、あることに気づく・・・。

 そう、この作品集のキーワードは「触れ合い」。生きている者と、そうではない者のコミュニケーションにある。表題作、最終に収録された『しんちゃんの自転車』など、いくつかの作品においては、死者と生者がまったく異質なものとして隔絶されるのでない。両者の間には、何らかのつながりがあり、生きている者は、死んでいった者から何らかのメッセージや気づきを受け取っている。
 そのことは、現象としてみるならば、たしかに「怪談」であり「ホラー」だろう。だが、その本質をみつめるなら、それは、必ずしも忌まわしいことではないように思える。死者から何かを受けとる――それは、ひとつの命が、孤独にあるのではなく、連綿たる命の流れの中にあることを示していることでもある。
 この作品集に流れるフィロソフィーは、「個」を主張する欧米的なドラスティックなものの極北にあるものであるように思える。そして、少なくとも、私にとっては、とても馴染みがいい。
 
 読み終わったあと、ふと周囲を眺めてみる。私は、目に見えない「何か」、もし目に見えてしまえば、恐ろしいかもしれない「何か」に囲まれて、この瞬間を生きているのかもしれないと思う。そして、そのことで、なんだかちょっと心の中がじんわりとあたたかくなる。
 荻原式・ホラーのなかなかに深い味わいを、ぜひ御堪能あれ。

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一気にメジャーになりました!荻原さん関連のページを少しだけ

映画『明日の記憶』の情報は、「公式サイト」で。個人的には、泣く映画が苦手なので・・・でも、感動作でしょう、きっと。

ファンサイト「なかよし荻原組」は、荻原さんを紹介している雑誌・ネットの記事をかなりこまめにチェック。愛が伝わってきます
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