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『おやすみ、こわい夢を見ないように』(2ページ目)

一見、平穏な日常に染みこんでいる「憎しみ」。この負の感情は、どこから来て、どこに行くのか・・・。直木賞作家が、日常と共存する憎しみを描いた7編を収録。

執筆者:梅村 千恵

 読後感のいい作品(たとえば、甘い涙を流せるとか、爽快だとか、カンドーするとか)だけが、いい作品なのだろうか。
事件が次々と起こり、ストーリーに身体ごと持っていかれて翻弄させられるだけが、読書の醍醐味なのだろうか。
 私は、違うのではないかと思っている。
小説を読むことの楽しさは、心のざらつきや違和感や、そういったものを味わえることにもあると思う。
読み終わって、ふと目をあげると、今まで見ていた景色が少しだけ歪んでみえる・・・
 そんな体験も、読書の醍醐味のはずだ。
 できれば一人でも多くの方に「泣ける」「癒される」作品ではない作品の魅力にもきづいてもらいたいと思う。
その意味で、当代きっての人気作家である著者のこの作品は、多いにおすすめである。

■「憎むこと」と「傷つけること」。その間にあるものは・・・殺伐たる時代に向けての著者のメッセージが滲む

 また、憎しみというものがきわめて直線的に「暴力」へと結びついたとしか思えない事件が多発する現在の世相に対して、著者のメッセージのようなものを感じ取ることもできる。
著者は、いくつかの作品において、「憎むこと」と「傷つけること」の間にある、些細かもしれないが、決定的な「何か」を見つめ続けているのだ。
人を憎しむという感情を否定するのは容易い。憎しみという感情が、自分と無縁なものであるという思い込みは、その感情に対する免疫力を失わせるようにも思える。
憎しみという感情は、愛情という感情と同じく、人の心のうちにあり、その心のサイズを超えるものではけっしてないはずだ。
そんなことに改めて気づかされる作品集でもある。

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■映画が公開中の『空中庭園』は、婦人公論文芸賞を受賞した作品。2004年は、社会現象ともなった『負け犬の遠吠え』が、2005年は、この方の『魂萌え!』が受賞しました

桐野夏生、公式ページ「BUBBLONE」には、古着に関するエッセイ、インタビュー情報など。


『婦人公論』って90周年だそうですね。記念のブログはこちら。女の幸せって・・・選択肢が増えれば増えるほど、つかまえづらくなっている気が・・・
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