ニートと呼ばれる生活をする男に対する女性の複雑で切ない思いを描いた表題作ほか5編を収録 『ニート』 ・絲山秋子(著) ・価格:1260円(税込) この本を買いたい! |
■文学作品にして稀有なほど直裁。そのタイトルに込められた著者の思いとは?
2004年『袋小路の男』で川端康成文学賞、2005年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞、直木賞候補になった作品も多く、本好きに高い評価を受けている絲山秋子さん。すでに注目されている方も少なくないと思うが、個人的には、もっと、もっと、もっと、多くの人に、その作品に触れていただきたい書き手の一人である。そんな彼女の最新短編集。
勤務先をやめ、引きこもり生活を始めた「キミ」の困窮ぶりをインターネットのプログで知った、駆け出しの女性作家の「私」は・・・。ニートと呼ばれる生活をする男に対する女性の複雑で切ない思いを描いた表題作および『2+1』。遠距離中の女性、育ての親である叔母に対する主人公の揺れる思いを描く『へたれ』など、人が人を思うことの、複雑さ、曖昧さ、切なさ、痛さを、ナイーブで、かつ無駄のない文体で描かれる珠玉の5編を収録。
文学作品にしては、あまりに直裁、とも思える、そのものズバリのタイトル。表題作及び『2+1』を読むと、著者がこのタイトルに込めた思いが伝わってくる。
「ニート」「勝ち組・負け組」「キャリアウーマン」・・・社会は、さまざまな人のさまざまな属性に対して、「レッテル」を貼る。それは、たとえば、マーケティングの見地などから言うととても意味のあることであるし、そのことによって、何らかの事実が導きだされ、それが社会を理解する際のフレームとなるのは疑う余地もないのだろう。
だが、一人一人の人間の本質であるとか、個性であるとか、魅力であるとか、そういうものは、その「レッテル」からはみ出したところにこそあるのではないだろうか。
その本質であるとか、個性であるとか、魅力であるとか、そういうものは、いくつかの語彙の組み合わせで定義することはとても困難だ。それを描きだせるのは、もしかすると、唯一、小説、いや映像も含めて「物語」だけなのではないだろうか。
インタビューをした際にも明言しておられたように、彼女は、さまざまな「カテゴライズ」に背を向けたところで、作品を紡ごうとしている。その意識が、逆説的な形で、このタイトル、この作品となったのだろう。そして、彼女は、また、別の意味での、ある「カテゴライズ」をも拒否する。それは・・・。