■運命に翻弄される限りある命の「人」その輝きを描く

 貧乏神から逃れるため、婿入り先に神を押し付けた彦四郎は、自分は、武士の魂の根幹である「仁」に悖ることをしたのではないかと悩む。厄病神の登場によって知った「先祖伝来の家の誇り」の正体に愕然とする。自身が盲目的に信じてきた「武士の誇り」が地に堕ちていることも実感する。
 だが、彼は、それでも、「もはや武士道など存在しない」と言う神や、法力によって武士の世の崩壊を見通している小文吾たちに抗い、あくまで、武士であろうとする。そして、徳川家でなく、「日本国」のためにともに働こうという同輩・榎本釜次郎の誘いを断り、こう宣言するのだ。
――武士道も人の道もよくは知らぬ。だが、七十俵五人扶の御徒士の道なら知っている。それは、大義に生きるのではなく、小義に死ぬる足軽の道である――と。

 死神の登場によって、自分自身の武士としての生き様、死に様を見出した彦四郎。既存の価値観がすべて崩壊し、混乱する世相の中で、彼は、敢然と己の信念に依って行動するのだ。その姿は、『壬生義士伝』『輪違屋糸里』の主人公たちに通じるものがあるように思えるのだ。

 世の流れは、人ひとりの力によってたやすく変えられるものではない。それは、運命という“神”の領域かも知れず、命に限りある「人」という存在は、運命に翻弄される。だが、そのだが、その世で生きる人の限りある生の輝きは、運命の非情を凌駕する――著者のメッセージがこめられた作品である。

 神にしてはあまりに人間臭い三邪神、鯔に似た容貌で、ボケ・キャラの小文吾、江戸っ子魂全開の蕎麦屋の親父・・・主人公と彼らの掛け合いは珍妙で、ユーモアもたっぷり。そして、ラストは、ぐっとくる。笑いと涙の浅田節、ますます健在ナリ!

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◆映画も話題になった『鉄道員』で直木賞を受賞した浅田次郎。もっとも有名な文学賞のことを知りたいなら、こんなページ「直木賞の情報」

■時代小説って、ハマったらヌケられないんでうしょね。特に幕末ものは・・・。幕末ものを読む楽しみが倍増するページをいくつかご紹介。

本作に登場する榎本武揚を取り上げたページ「VOOR LICHETER」では、彼の一生についての記述のほか、函館・五稜郭での戦いや、咸臨丸のことなど。

「幕末千夜一夜」では、年表、幕末に起きた事件を大小とりまぜて、紹介したエッセイ、全国の藩地図などを掲載。

「ようこそ幕末の世界へ」には、史跡めぐり、幕末関連の祭やイベントの紹介が。幕末好のお出かけガイドに!

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