ある夏の日、旧家で起こった大量毒殺事件。唯一、生き残った美少女。解決したはずの事件が、年月を経て再構成される時・・・『ユージニア』・恩田陸(著) ・価格:1785円(税込)この本を買いたい!■旧家で起こった大量毒殺事件。月日を経て、人々の記憶の奥底に眠った事件が、月日を経て再び・・・ 著者自らが、「ターニングポイント」と位置づけた意欲作。もし、『このミステリーがすごい! 2005上半期』とでもいうものがあれば、少なくとも現段階では、私は、この作品を一位に推したい。 舞台は、日本三大庭園を抱く歴史ある街。ある夏の日、その街の名家として知られる青澤家で当主の還暦祝いとその母の米寿の祝いが行われた。そして、その日は、多くの人々にとって、容易に忘れ去ることのできない日となる。 ある親戚からだと言って届けられた酒やジュースに入っていた毒で、集まっていた家人・親戚、祝いに訪れていた近隣の人など17名が殺されたのだ。 青澤家の人々の中で、生き残ったのは、当時中学一年生の盲目の美少女・緋沙子のみ。 誰が?いったい何のために?第二の帝銀事件として、世間を騒然とさせたこの事件は、やがて、解決を見る。一人の青年が、犯行を告白する遺書を遺し、自殺したのだ。 そして、事件から十年、同事件の関係者を取材した一冊の本が、再び、世間の耳目を集める。本のタイトルは、『忘れられた祝祭』。 残虐にして悲惨な事件を“祝祭”と名づけた著者は、青澤家の近隣に住み、当時小学生だった雑賀満喜子。事件の当日、彼女は二人の兄とともに、青澤家を訪れていたが、間一髪で被害を免れ、兄の一人は、事件現場の最初の発見者となった。大学生となった満喜子が書いたその本は、綿密な取材に基づきながら、ノンフィクションともフィクションともつかぬ独特の空気を漂わせ、ベストセラーとなった。 さらに、月日は、流れる。 満喜子の本すら人々の記憶から消え去ろうとしている頃、ある人物が、人々の心の記憶のヴェールを剥がそうとする。 今は普通の主婦となった満喜子、彼女の助手を務めた青年、事件の第一発見者となった満喜子の兄、青澤家のお手伝い、事件を調べた刑事、犯人として死んだ男の周辺の人々・・・多くの人が、再び、三度、事件について語り始める。そして、ある人物は、ついに、青澤家の唯一の生き残りである緋沙子のもとに・・・。■読者を物語に「参加」させる仕掛けの独創性とそれを支える筆力に瞠目! 属性がほとんど明かされない人物の取材という形式を取ることで、過去のものとなったひとつの事件を多様な人物による視点で再構成されるという形式を採る本作。 聞き手にあたる人物を特定しないことによって、読んでいる者が、その人物になり、事件の関係者の言葉をその場にいて聞いているかのように思わせる。 読者を物語に「参加」させてしまうという仕掛けの独創性、多彩な登場人物の多彩な語り口を見事に書き分けるという筆力には、瞠目させられる。 さて、この仕掛け、恩田陸ファンなら言うまでもないのだが、どこかで見たことが・・・12次のページへ