■異なる「聖域」を信じるもの同士の「聖戦」。その悲劇を凝視し、その先に・・・
この作品に限ったことではないのだが、私は、9.11同時多発テロ以降、同事件が、多くの書き手の世界を見る枠組みとでもいうものに大きな影響を与えているように思える。
本作の中で、卑劣な攻撃の対象となるものは、既存作にでてきたダムのような大掛かりな装置ではない。ひとりの少女の歌声だ。
だが、この歌声こそが、ある集団に属する人々にとっては、「聖域」なのである。
彼らにとって、この攻撃は、明らかに、「テロ」だろう。
そして、「テロ」を仕掛ける者たちも、自らのある「聖域」を守るために行動を起こすのである。
さらに言うなら、登場人物のひとりである桐生は、科学技術を信奉し、社会的な野心の
彼も、科学万能主義、資本主義という「聖域」を信じる者である。
本作書に描かれる悲劇や争いは、異なる聖域を信じるものの、聖戦でもあるのだ。
また、本作では、「聖域」の成立には、いくつもの伝説が介在することが暗示されている。その伝説に象徴されるように、本書の重要なモティーフである吸血鬼伝説がそうであるように、さまざまな誤解や無知をその成立の過程で内包している。
多かれ少なかれ、そんな伝説によって守られている「聖域」というものも、あやふやで不確かなものであるとも言える。
■同時代人として胸に響く主人公の姿。「ダム」より大きなものに挑もうとする著者の真摯さを感じる作品
主人公の晃子は、そのことを凝視し、そんな聖域に殉じる者同士の不条理な闘いの渦中に巻き込まれる。生きている意味を「どこか」「何か」に求めることから生まれる悲劇に直面しながら、それでも、彼女は、その意味を探そうとする。彼女は、もちろん、フィクション上の架空の人物である。だが、その姿は、「同時代人」として、読む者の胸を響いてくる。
大ヒットとなったホワイトアウトの著者の作品にしては、スケール感に乏しいと感じると感じる人もいるかもしれない。だが、私は、著者が、この作品で、もっと大きなものに挑もうとしているように思えてならない。
もっとも、余計で未熟な講釈など、著者にとっては、「大きなお世話」だろう。
ひとつ確実にいえるのは、間違いなく、最後まで一気に読めること。それなりのボリュームなのだが、読み終わったあと、「もう少し長くてもよかったかも」とまで思ってしまう。それだけ、この著者のストーリーテーリングの技が確かだということだろう。
この本を買いたい!
やっぱり、眼を離せないこのジャンル。ラストを知るまでは・・・秋の夜長も面白いミステリーさえあれば・・・情報チェックは「ミステリー・ホラーの情報ページ」で。
◆平成3年『連鎖』で江戸川乱歩賞を受賞した著者。ミステリーの新人賞としては、もっと権威ある賞と位置づけられています。それだけに、受賞者は、現在のミステリー界の中核をなす実力派揃い。たとえば、こんな人が・・・◆
毎回、この方と著者が同時に某賞にノミネートされていた気がするのですが、この賞もやっぱり獲っていたんですね。東野圭吾は、昭和60年、『放課後』で受賞。「東野圭吾公式HP」では、映像化の話題が花盛り!
平成10年『TWELVE Y.O』で受賞した福井晴敏。『亡国のイージス』『終戦のローレライ』など、この人の作品もスケール超ド級です。「福井晴敏オフィシャルページ」では、彼の意外にファンキーな一面も・・・。
『グロテスク』言葉にできないほど、ビンビンきました。『残虐記』もズシンと来ました。尊敬してます。凄いです。桐野夏生は、『顔に降りかかる雨』で平成5年に受賞。「公式ページBUBBLONIA」では、ご本人からのメッセージも。
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