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実力派の最新作 『犯人に告ぐ』(2ページ目)

『巨貌』『火の粉』でじわじわと人気を拡大中の雫井 脩介の最新作。「劇場型犯罪」には「劇場型捜査」で挑む!?ニュース番組を巻き込んでの捜査の結末は?

執筆者:梅村 千恵

■巨大な社会的「装置」に対比させて浮き彫りにされる男の矜持

 きわめて下世話で身勝手な理由からライバル局に情報を流していたキャリアに罠を仕掛けた巻島は、彼に対してこう言い放つ。

 「あなたは刑事の血を知らない。思い上がりではなく、正直に言ってるだけです。これは紛れもなく私の捜査です」――

 この言葉には、象徴されるように、本作は、警察組織、メディアを含めた巨大な社会的「装置」を描きながらも、その装置に時として身をさいなまれながらも、個としての意地と使命をまっとうしようとする一人の男の矜持が見事に浮き彫りにされているのだ。

■熱血・人情型ではなく一癖ある主人公。“悪役”たちの人物造型にもリアリティーあり

 さらに、この巻島が、いわゆる一見、熱血・人情型の人物ではなく、一種の冷酷さを「いき抜くための知恵」としてまとっているのがいい。外見も、長髪で、50代という実年齢よりはるかに若く見える設定。むしろ、このほうが、「いるかもしれない、こういう人物」と思わせてくれる(映像化しても、面白い効果が出そう)。
「いるかもしれない人間」として描かれているのは、主人公の巻島だけではない。彼を利用しようとする曽根の野心や、内部密通者の一人よがりの恐るべき軽薄ぶりにも、リアリティーがある。特に後者、いかにもいそうなんだ、これが・・・。そういう意味では、感情移入のしやすい作品であり、トリック先行型のものにいまひとつ馴染めない方にも興奮したり、怒りを覚えたりしながら、作品世界に没頭していただけるだろう。

 伏線の張り方にも目立った隙はないように思える。あえて難を挙げるとするなら、犯人像の掘り下げが比較的浅い点だが、犯人の動機にばかり着目し、それを結局は精神的病巣に帰着させるという作品に全面的な共感を覚えない私は、むしろ、好感を覚えた。
少々うがった読み方であるかもしれないが、動機がどうあれ、被害者と被害者の家族の苦悩の深さは変わらないという著者のメッセージが込められているようにも思える。

 「このミス!」大本命は、少し先走りだとしても、本作が2004年のミステリー界を彩る話題作のひとつとなるのは、ほぼ間違いないだろう。

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やっぱり、このジャンルは熱い!ミステリーに関する情報チェックは「ミステリー・ホラーの情報・作家ページ」で。

◆新人賞ではなく、既存ミステリー作に与えられる賞には、こんなものが・・・◆

桐野夏生、東野圭吾、福井晴敏・・・この賞を受賞すれば、名実ともに「実力派」。日本推理作家協会賞。ちなみに今年の受賞者は、歌野晶午、垣根涼介。詳しくは、「日本推理作家協会HP」で。

本格ミステリ大賞は、本格ミステリの書き手たちが投票によって受賞作を決定するユニークな賞。今年の受賞作は、『葉桜の季節に君を想うということ』。情報は、「本格ミステリ作家クラブ公式HP」で。

ミステリーガイド内のランキングだけど、注目度の高さは抜群の「このミステリーがすごい!」。2003年版の一位は、『葉桜・・・』。さて、今年は?詳しくは「宝島チャネル」で。
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