■緻密な外面描写の積み上げが「感動」を支える
さて、喪失の深い哀しみから立ち上げる人々を描いた7編の短編を集めた本作には、「絶対泣ける」という謳い文句がついている。率直に言おう。私は、「こんなイイ話で泣けないヤツは冷血漢」的な無言の押しつけが苦手である。だから、この作品を読む際にも、涙腺はがっちりロックして臨んだ。だが、表題作の中段あたりでそのロックに綻びが生じはじめ、大手術に臨む孫への気持ちを込めた小さな石を遺し、不帰の人となる老人が登場する『ハートストーン』あたりで、涙腺が決壊してしまった。私のようなひねくれ者にもラストの感動を真っ直ぐに伝える、著者の「策」とは何か。それは、徹底した外面描写であると思う。
たとえば、表題作。小学3年のカンタとヨウジがドッチボール大会に出場しているシーンが、カンタの視線で描写される。体操服を汗で透かし、体育館に響き渡る声をあげるヨウジ。「まだまだ、これからだ、3組ガンバ!」――
行間からシーンが立ちあがってくるかのようなキレのある描写である。このような見事な外面描写の積み上げがあってこそ、ラストが生きるのだ。
世間を席巻している感動作「セ○チュウ」の主人公の出口のない陰気な内省よりも、このドッチボールシーンの方が数倍も泣けるのは、私だけではないと思いたい。
■「大ハズシ」がないのは、さすが。次作への期待も膨らむ
この著者の最大の魅力は、大ハズシがないことだろう。
個人的な見解だが、私は、10年に一作、超傑作を書き上げる書き手より、3ヶ月に一作、平均点以上の作品を読み出す作家を圧倒的に支持する。それができてこそ、職業作家だといえるのではないだろうか。
率直に言って、私は、この短編集が、著者のベストだとは思わない。倣岸というそしりを承知で言うなら、7割程度の力の入れようで書かれた作品であるようにも思える。だが、間違いもなく良作であり、代価を支払って購入する価値のある作品だ(インタビューなどでご本人にお会いする機会がわりあい多いので、「ヒイキ」が入っているかもしれないが、その分を差し引いても・・・)。
作品自体も十二分に楽しめるし、同時に、著者の次作への期待も膨らむ。そう思わせるのは、この著者が、ノっているからだろう。
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