『邂逅の森』
祝!直木賞受賞!若きマタギの人生を自然への畏怖を込めて描く渾身作。


『邂逅の森』
・熊谷達也 (著)
・価格:2100円(税込)

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■狩猟シーンの描写は、身体ごと持っていかれそうな迫力、臨場感あり!

 この作品のことを初めて耳にした時、率直に言って、あまりそそられなかった。だって、主人公がマタギ(猟師)ですよ、巨大熊との戦いですよ。あまりにマッチョにすぎないか。
 だが、読み始めてみると(浅田次郎さんがオススメだったから読んだんです。典型的なミーハーです)、電車の駅を乗り過ごすほど、引き込まれてしまった。

 冒頭は、旅マタギ、すなわち出稼ぎ猟のシーンだ。大正3年の冬、山形県の月山の麓 25歳の若きマタギ富治は、狩猟組の仲間たちとアオシシ(かもしか)を追っている。
雪の急峻な斜面で息を詰めて、頭領の合図を待つ富治。獲物を追い出す役割である勢子の声が山々に響く。舞い上がる雪の煙とともに飛び出すアオシシ。雪から足を引き抜き、傾斜40度以上の斜面を体ごと滑っていく富治・・・・・。富治を取り巻いている濃密な時間が行間からあふれ出す。富治たちが口に短いマタギ言葉、東北弁が豊かなリズムを添える。そして、獲物を仕留めたことを仲間に告げる「勝負!」という一声。溶けていく緊張感・・・
 身体ごと持っていかれそうな描写力に、「いまどきマタギはないでしょ」と思っていた自身の浅薄さを思い知らされた。

■東北の山村でマタギとして成長する主人公。だが、思いもかけぬ波乱が・・・

 ストーリーは、このような猟のシーンを織り込みながらダイナミックに展開する。
 秋田県の山村で生まれ、優秀なマタギに成長した富治だが、村の地主の娘・文枝を身ごもらせたことで、彼女の父の怒りを買い、村を逐われる。銅鉱山で採鉱夫として働きはじめた富治は、次第に地中での仕事に慣れていく。だが、休みの日に素人猟をしている小太郎という男との出会いをきっかけに、富治の人生の舞台は、再び、蒼天を抱く森へと還ることになる。
 マタギに戻る決意を固めた彼は、生まれ育った村には帰れず、小太郎の住む村へと赴くのだった。娼婦あがりの小太郎の姉・イクを妻にした富治は、村の狩猟組の頭領として、猟を指揮することに。
 年月は流れ、老年期にさしかかった富治に意外な邂逅が待ち受けていた。心の奥でずっと思慕してきた文枝と息子の出現。妻・イクの決意と痛み。彼女たちの思いを辿る小さな旅をきっかけに、富治は自らの行く末をも問い直すことになる。彼が答えを出してくれる存在として見出したのは、他でもない「山の神様」だった。富治は、神の魂が宿るとされる巨大熊との闘いにたった一人で臨む・・・

 この作品の底流には、当然のことながら、大自然への畏怖がある。だが、単純な自然礼賛ものではけっしてない。