『パンク侍、斬られて候』
この本を買いたい!
■奇妙な宗教団体VS世間をなめきったパンク侍。パンクな言葉と破天荒な展開で本領発揮!
町田康、時代小説に挑む! ファンにとっては、ワクワクもんである。
その期待を裏切らず、あらすじからしてかなり飛ばしてくれる。
舞台は、江戸時代(時代小説なもんで)。ある藩の茶店にあらわれた牢人は、そこにいた巡礼の老人を「抜く手も見えず、太刀を振りかざすと、ずば。」と斬り殺す。居合わせた藩士に理由を問われたその牢人・掛十之進は、かの老人が、「腹ふり党」の一員であり、間違いなく藩に仇なすこととなるからだと言うのだった。十之進の説明によると、「腹ふり党」とは、宗教団体のひとつ。各藩・各国にウイルスのごとく進入、大流行の兆しを見せており、隣藩もその流行により著しく疲弊していると言う。
この世は、巨大な条虫の胎内にあり、胎外、すなわち真正世界への脱出を願う奇妙な宗教「腹ふり党」。信者たちは、虫が自分たちを「異物」すなわち便として排出するのを促すため、あえて無意味なこと、すなわち、田畑を捨て、労働を放棄して、ひたすらに「腹をふりふり」踊り狂うのだ。結果、税収が激減し、藩制は、混乱に陥る・・・
フリーランスの超人的剣客として生計をたててきた十之進は、コーディネーターとして雇われていたある藩でその実態を見たのだ。あくまでも、「見ただけ」の十之進だったが、すったもんだのあげく、首席家老VS次席家老の対立にも乗じ、自分を「腹ふり党」対策のスペシャリストとして売り込むのに成功するのだった。もちろん、骨太の対策など、その心中にはかけらもない。一時金目当て、もしことが起これば、口八丁・手八丁でなんとか乗り切るつもりでいた十之進。だが、事態は、意外な方向に・・・。
世間を完全になめきっている主人公を筆頭に、狡猾この上ない政治家やら、都合の悪いことからは逃げの一手で藩という組織に安住してきたヤツやら、完全にイっちゃってるように見えて実は冷徹な現実派である扇動者やら・・・どこかで聞いたことある、見たことある輩がわらわらわらわらと登場し、そいつらが、「マジむかつく」「ところでさあ」というような調子で「データ」やら「クールダウン」やら横文字もふんだんに使って会話するわけだから、帯にもあるように、「従来の時代小説の概念を打ち破る」作品であることは間違いない。
だが、この作品が、時代小説らしくない、言い換えれば、きわめて現代的なのは、登場人物の造形や語彙のみではない。