■自分の身体と心に聞いて「規範」を決める。規範があるから、逸脱も輝く
おいしい料理を一緒に食べた(あるいは作ってくれる)男とのセックスが、極上とは限らないが、この作品集を読んでいると、本当に、食事とセックスは、自分の身体の感覚に密接に密接に結びついた、きわめて個人的なものだと改めて感じさせられる。
そして、自分の身体が求めている「美味しい」食事と、「気持ちのいい」セックスに行き当たることがそう簡単なことではないとも思う。
そもそも、自分の身体が、どんな「味」を求めているのか知っている人は、どれだけいるのだろうか。
著者は、「本当に心と体が求める食事とセックスこそがスローフード、スローセックス」と前書きで書いているが、「ファーストフード」「ファーストセックス」で済まそうと思えばできるんだから・・・・
この作品集に、登場する女たちは、都会で自活(自立、ではない)するのに手一杯の女たちであり、最初から「スローフード」「スローセックス」を意識したり、実践していたわけではない。むしろ、「ファーストフード」「ファーストセックス」に流れされがちな女たちである。だが、『賜物』に登場するコンビニ食で暮らしているOLが、不思議な石が突然送られてきたことがきっかけで、少しずつ食生活を変えていくように、なんらかのできごとを自分の身体と心の声を聞く。そして、それなりのやり方で、丁寧に食べて、丁寧に寝ることの大切さを知る。
丁寧に食べる、丁寧に寝る――そこには、自ずとルール、規範が生まれる。
規範があるからこそ、逸脱の歓びがあるのだ。
美味いポトフを作る男がくれる安定した食生活と安定した性生活に安らぎを感じている女は、台所の片隅で卵ごはんをかきこんで「野生」を目覚めさせるように・・・
野放図に雑に生きているとと、本当の「美味しさ」に気づかないで過ぎてしまう、そんな気がする。
セックスは、相手がいることなので、なんともしがたいものがあるが、食生活は、ちょっとしたルールを設定するで、「スロー・フード」に近づけるのではあるまいか。
私は、この本を読んでから、コンビニめしを食器にあけるようになりました。
かなり、手遅れ、なのだが・・・。
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