■家族とは、元来「良きもの」なのか?答えを真摯に模索する著者
著者は、あとがきで、「家族に帰れ」というようなメッセージに対する反発を表明している。
彼は、おそらく、家族とは、もともと良きもので、周辺の状況さえ変われば(あるいは、周辺の状況への認識させ変われば)、その良きものに回帰できるという、一種気楽な前提に疑問を感じているのではないだろうか。
本編で、悲惨きわまりない家族内殺人の現場に立った馬見原は、「あたたかい家族」「よき家族」を取り上げた新聞記事を思い起こしながら、こう心の中で叫ぶ。
――家族とは、そういうもののはずだ。そうじゃないのか?――
と同時に、彼の心の中には、その叫びを嘲笑する声が響くのだ。
――世間をよく見ろ、社会を見回せ、昨日の新聞の事件欄を広げてみろ、今日のテレビのニュースをよく見ろよ。家族のあいだで、どんな事件が起きている?警察には、家族が関わったどんな事件が持ち込まれている?いや、そんなことより、まずおまえの家族はどうなんだ・・・――
この問いに、著者が、果たしてどんな答えを用意しているのか、あるいは、していないのか。どちらにしても、単純なカタルシスが得られるような結末ではないはずだ。むしろ、暗澹として救いのない結末である可能性が高い。
著者が、あとがきで表明しているように、この物語は、けっして楽しいだけの内容ではないだろう。だが、家族というものに、真摯に、あまりに真摯に向き合う著者が、長い時間をかけて大切に大切につむぎだした物語であることは間違いない。
同作は、一ヶ月に一冊ずつ、5部作で刊行される。一冊、一冊、私なりに、丁寧に読んでいきたいと思う。
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