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モノの描かれ方から小説を読む 『文学的商品学』(2ページ目)

『失楽園』、『なんクリ』、両村上作品、江国、川上作品・・・小説は、洋服、食べ物、車などモノ=消費財をどう描いてきたかを考察。トンでも描写にも理由アリ。読書の楽しみ方が広がります。

執筆者:梅村 千恵

文豪の名作からジュビナイルまで、衣食住から、ホテル、車、音楽まで。モノの絵が描かれ方が示す作家の「視線」

取り上げられている作品は、漱石、鴎外、谷崎ら文豪の名作から、ある世代の人は強烈に懐かしい青春文学の名作『赤頭巾ちゃん気をつけて』や、個人的に若かりし頃の自分を思い出して赤面の片岡義男作品、一世を風靡した『なんとなくクリスタル』『失楽園』、そして、日の出の勢いの江国香織、川上弘美作品、はたまた、『キノの旅』といったジュビナイルまで。
さすが、博覧強記の著者だけある。

「アパラル泣かせの青春小説」「飽食の時代のフード小説」「いかす!バンド小説」「とばす!バイク小説」といった具合に、タイトルの付け方も気が利いていて、巧い。

一世を風靡した『なんとなくクリスタル』で、描かれたブレンド名羅列のファッション描写は、どんな意図によって描かれたのか、『失楽園』のヒロインの服装の服装の紋切り型の描写(しかも、どう考えても趣味が悪い。ピンクのスーツに花柄のスカーフ、グレーの帽子って、どうよ?)は、著者のどんな視座をあらわしているのか、村上龍の『料理小説周』胃にもたれそうな料理描写は、彼がその作品で「料理」にどんな役割を持たせていたからなのか・・・
さまざまな疑問が氷解するともに、モノの描写の向こうに、作家たちの視線を感じ取ることができる。

個人的には、私がなぜ、江国香織や、川上弘美作品の、普段着のあっさりした食べ物描写に、一種のいやらしさを感じるのか、わかって、すっきり。そう、食べ物って、男と女の距離感の象徴なのよね・・・。
若かりし頃、片岡義男のバイク小説の、ヒロインがバイクに乗るシーンに憧れていたかもわかりました。手っ取り早く言えば、自立の証明だったわけだ。
花村萬月『ゴッド・プレイス物語』のバンドの歌詞部分は、読み飛ばしていたけれど、改めて読むと、けっこう笑えたりするし・・・。

読書好きでなくても、章にあげられた作品の中には一作くらい読んだことのある、あるいは、読んだことはなくても内容くらいは知っている作品があるので、結構楽しめると思う。

テーマの時代性などを深掘りするガッチリした評論も悪くないが、本を読む楽しみを増大させるには、こういう「重箱のスミをつつく」ものの方が、絶対、効果がある。

そう、神は細部に宿るというではないか。

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