『誰か somebody』
この本を買いたい!
自転車によるひき逃げ事件で横死した運転手。その死に、遺された姉妹は、異なる反応を・・・
SFもいい、ジュビナイルもいい、時代小説もいい。でも、やっぱり、この人のミステリーらしいミステリーを読みたい! ジリジリしていたのは、私だけではないだろう。
著者2年ぶりの現代ミステリーは、帯に「事件は小さいけれど・・・」とあるように、日本中を震撼させるような連続殺人事件も、猟奇殺人事件も起らない。
起る事件は、ひき逃げ。それも、暴走トラックだとか、重量級のひき逃げではない。自転車によるひき逃げなのである。事件は、確かに小さい。だが、ひとりの人間の人生を断ち切ってしまうことには変わりはないのだ。
被害者は、日本有数の複合企業体・今多コンチェルンの会長の運転手・梶田。梶田の死後、会長の末娘・菜穂子の夫であり同社広報室で働く編集者・杉村三郎は、義父から遺された姉妹の相談に乗るよう指示される。姉妹のうち、妹は、父の思い出を本にして出版し、犯人逮捕のきっかけにしたいと切望しているのだ。一方、十歳年上の姉・聡美は、出版に反対する。その理由は、父が運転手になるまでにかなり「誉められたものではない人生」を歩んでいたことを知っているからだと言う。 父の人生を堀返すことを「暗い過去」が明るみに出るのを極端に恐れる聡美。彼女には、その「過去」を確信させるひとつの記憶があった。幼い頃、父を憎んでいるらしい人物から誘拐されたことがあると言うのだ。
二人の間で板挟みになりながらも、梶田の人生をたどりなおす杉村。堀田は、なぜ、まったくの未知の土地で、危難に遭ったのか?本当に、ただの事故なのか?運転手をする前に勤めていた玩具メーカーで何があったのか?聡美の記憶にある誘拐事件の真相は?