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ちょっとだけカルトな本棚 『望楼館追想』(2ページ目)

1970年生まれ異色作家のデビュー作。古い舘に住み他人の愛したものを収集する主人公。精緻に構成され、異形のイメージに満ちたストーリ-が「ロンドン・タイムズ」など各メディアで絶賛。

執筆者:梅村 千恵

■哀しくも滑稽な喪失のイメージ、あちこちにたくらみが仕掛けられたストーリー。あの人が好きな方ならゼッタイ楽しめるはず

前述したようにエキセントリックな登場人物たちが、停滞したそれぞれの時間の中でひっそりと生活している古い舘。そこに「新しい住人」がほとんど唐突にやってきたことから物語が動きはじめる。

「僕」の抵抗にも関わらず、「新しい住人」=度の強いめがねをかけた女性・アンナは、それぞれに封じ込められた「記憶」をこじあける。開かれたパンドラの箱からは、無数の思い出が、飛び出し、望楼館全体に満ちる。だが、それは、それぞれにあまりに重い喪失の記憶だった。自らの過去に打ちのめされ、やがて、沈黙し、砕けていく住人たち。そして、外面と内面の不動を守っていたはずの「僕」の過去も、眠りから覚めた両親たちの追想によって次第に明らかになっていく。
他人の愛したものを盗みつづける彼の奇妙な盗癖の理由は?白い手袋の意味は?「僕」の行き着く先は?

哀しくも滑稽な暗喩、ユーモアとアイロニー、不可解な謎、手袋、ものさし、めがねやボタンといった様々な小道具によって巧みに張りめぐらせられた伏線――。本作は、ゴシックロマンのようでもあり、魔術的リアリズム作品のようでもあり、ミステリーのようでもあり、そして、そのどれでもない。本作のジャンルは・・・そう、あえて言うなら、著者「エドワード・ケアリー」というジャンルであろう。

こう書くと、何人かの方は、既にお気づきだろう。我々の同時代、我々と同じ日本人の中にいるではないか。著者そのものが、ジャンルである稀有な書き手。そう、村上春樹である。安易にレッテルを貼るのは、あまりに失礼というものだが、あえて言う。これは、イギリスの村上春樹である。

新作を焦れるようにして待たねばいけない作家がまた一人増えた。うーん、本好きでよかった! ちょっと大げさだけど、この著者と同じ時代、英語が全然ダメでも邦訳で読める時代に生きていて本当によかった!

この嬉しさを共有してくださる方が一人でも多いことを祈りつつ。

★あえて、アラ、捜します!
挿絵も装丁も◎。それにしても、2000年にイギリスで出版されて、2年以上経っているのね。新作も邦訳されるまでにそれくらいかかるのかしら? 文藝春秋さん(ほかの出版社でもいいけど)ぜひとも頑張ってください!

この本を買いたい!


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