『エンロンの衝撃』
奥村 宏 NTT出版 1600円
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■偽りの繁栄を作り上げた会計操作。アメリカ型資本主義を襲った「危機」の実態とその背景、波紋に迫る
著者は言う。アメリカの21世紀は、二つの危機で幕を開けた、と。一つは、言うまでもなく、9.11同時多発テロ。これは、政治的な側面における「アメリカ帝国」への攻撃であった。そして、もう一つの危機は、ある巨大企業の倒産である。その企業の名は、エンロン。1985年にパイプライン会社が合併して生まれ、電力、ガスなどの卸売取引で莫大な利潤をあげ、気象までも商品にするといわれたデリバティブ取引、ブロードバンド事業などにも手を広げ、わずか15年で全米第七位の巨大企業にのしあがった企業。著者がその倒産を「危機」と言い切るのは、倒産にいたるまでの経緯を、世界経済のスタンダードとなるべきだとされていた「アメリカ型資本主義」の根本を揺るがすものであったからである。アメリカ型資本主義の根本にあるのは、株式市場への信頼であり、そしてその信頼は、ディスクローズされる企業会計の信頼に拠っているのはいまら言うまでもない。エンロンの倒産は、その根本中の根本が腐蝕している現実を社会に突きつけたのである。
巨額の簿外債務が判明したことで株価が暴落し、一気に破滅していたエンロン。まず、本書では、この「簿外債務」という会計操作について詳しく解説されてりる。特別目的会社を使いその手口は、複雑にして巧妙。本書でも触れられているが、かつて話題になった山一證券の「飛ばし」が、幼稚に見えてしまうほどだ。さらに、著者は、その粉飾決算を許した背景や「エンロン以後」の波紋についても、会計監査法人や証券会社のあり方なども含め、鋭いメスを入れる。しかし、ここまでなら、すでにマスコミでもさかんに報道されており、「今さら」という方も多いだろう。しかし、本書の独自な点は、「エンロン危機」をアメリカのみならず、日本の資本主義の根本的な欠陥とも絡めて論じていることだ。